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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第24章 明かされる正体
それから自邸に戻ったバヤジットは、宿舎からここまで歩いた記憶も定かでないほど心が乱れていた。
外はかなり暗い。
帰り着くまでに時間をかけたのは確かだろう。
放心した状態で、バヤジットはとある部屋に足を踏み入れた。
もともとシアンに使わせていた部屋だ。
もしかしたら…シアンが帰ってきてやしないものかと、一縷(いちる)の望みを抱いた自分がいたのかもしれない。
けれど室内はものけの空。
置き去られた彼の荷袋が、寝台の足元に残されているだけだった。
彼の姿が無く落胆するような安堵するような…複雑な顔をしたバヤジット。
「あの、バヤジットさま」
「……?オメル か」
そんな彼の前に、帰宅の物音に気付いて隣室から出てきたオメルが現れた。
「シアンは」
「……まだだ、見つからん」
「…っ」
シアンの部屋で佇むバヤジットは、オメルを見ようとしない。
オメルは、言うか言うまいか迷った後、衣の裾を握りしめて声に出した。
「シアンはっ……スレマンさまの所にいる」
「……!」
「今もきっとそこにいる。でもシアンは、好きであいつの所にいるわけじゃないんだ…!! 助けて、あげて」
「……」
「喧嘩したのかもしれないけどっ…でもシアンは、いいやつなんだ…」
「……わかっている」
バヤジットの事情を知る由もない。
オメルは純粋にシアンを思い、痛めた心のままバヤジットに訴える。
「わかっている…!!」
「バヤジットさま……怒ってるのか……?」
「違うんだ」
身体の奥底から押し出すような低い溜め息を吐き出す。
眉間のシワをやわらげようとしたところで…上手くいかない。
「バヤジットさまならあいつから取り戻してくれるよね」
「それは……っ。戻るかどうかは、シアンが自分で決めるコトだ」
「でも放ってたらシアンはまたスレマンさまに虐められる!」
「騒ぐな!迎えには出向く」
「…本当です、か?」
「ああ」
バヤジットがそう言うと、オメルの顔に少しだが冷静さが戻った。
逆にバヤジットの中には、気休めの言葉でオメルを騙している罪悪感がたされてしまう。
“ お前にこれほど心を傾ける者がいるというのにそれすら気付かないのか?それとも目を背けたのか?シアン…!! ”
ますます苦しいだけだった。