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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第24章 明かされる正体

 それから部屋へと踏み出した。

 誰もいない寝台は使う者が去って久しく、布団に手を置いてみても人の温もりは残っていない。

 本当に──ここにシアンがいたと語る物は、足元に残る小さな荷袋ひとつだけ。

「……」

 バヤジットはそれを拾った。


 中に手を入れようとして……ためらいがちに止まる。


 この中には、シアンの正体に繋がる何かがあるかもしれない。だが彼の全てを知る恐怖がバヤジットを躊躇わす。


“ 俺に受け止められるのか ”


 彼の正体を


“ 暴く権利があるのか ”


 彼が王都へ来た目的を


「バヤジットさま…?何してるの」

「……」

「それ、…っ…シアンのだよ」

「……シアンは、俺の部下だ」

「……!」

「あいつが何者だろうとそれだけは変わらない。上官である俺があいつから逃げる訳にはいかない……!!」

 シアンの荷を持ち立ち尽くすバヤジットは、意を固めたようにそう呟き

 荷袋の口を開いて寝台に広げた。


シュル ッ........


 オメルが緊張した様子で見守っている。

 シアンの持ち物は少なかった。

 最も大きいのは香油を入れた壺だった。シアンがまとっていた香りと同じ匂いがするこれは、肌の手入れに使われていたのだろう。

 赤い紅(べに)と、練り薬。粉末状の薬は紙で包まれ、紐で口を縛られていた。

 それから、これは──

「貴族の紋章──…」

 最後に手にした手筒(てがみ)には、背面の赤い封蝋に、貴族の紋章が付けられていた。


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