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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第26章 密書の送り主
「──でもわたしは貴方が死んだとは思えなかった。だから国中を探したわ」
「どうして探したのですか?」
「貴方を助けられなかった自分の無力さを悔やんでいるの…」
王妃ハナムは、袖の隙間から書状を取り出し、顔を上げないシアンのほうにそれを放る。
パラッ…
「……これは?」
「 " あの日 " タラン侍従長が貴方の部屋に置かせた物よ。騒ぎの後に見つけたわ」
シアンは書状を拾い上げ、畳まれたそれをひろげる。
「……」
「陛下の名を語り貴方を寝所に呼び寄せた者がいたと、証明できるわ」
「こんな紙切れひとつ出てきたところで…」
「もちろんこの書状だけでは弱いでしょうね」
ハナムはシアンの前にそろそろと歩み寄る。
シアンの帽子の内側に両手をさしこみ、生成(きなり)色の髪に指を通す。
「貴方の証言があれば話は別よ」
ハナム王妃は彼の頭を胸に抱き、そっと耳元へ語りかけた。
「明日の巡回には、サルジェ家の屋敷も含まれていたわよね?」
「…はい、王妃様」
「ではこの書状を持って屋敷の父上を訪ねなさい。わたしが根回しをしておくから……そこで " すべて " を打ち明けるの。そうすれば我がサルジェ公爵家が、タラン侍従長や裁判院から貴方を守るわ」
「その言葉を信じられるほど僕はナマぬるい世界を生きてはおりません」
「どうか信じて」
「……」
「まだ小さかったわたし達がっ…王宮で過ごした優しい日々を懐かしく思わない?陛下も貴方も仲良しで、ね、そんな二人を見るとわたしまで幸せになれたわ」
「そんな過去…──ッ」
シアンは咄嗟に顔をあげ
自らを抱きしめる王妃の手を振り払った。
「っ…逃げては駄目よ」
「…っ」
「その幸せを壊したのはタランよ。貴方には復讐を遂行する義務がある。そうでしょう?」
「僕は…」
問い詰めるようにハナムがにじり寄る。
シアンは身を引いてそれをかわし、半分ほどけた帽子で、目元を隠した。
「今の僕はシアンです。何にも縛られるつもりはない」
「まさか今さら迷っているの!?」
「いいえ迷いはありません。この書状も……せっかくなので利用させて頂きます」
シアンは渡された書状を手にして立ち上がる。
残されたハナム王妃に深く礼をして、彼は水の社を後にした。
──