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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第26章 密書の送り主
シアンは近衛兵宿舎の自室に戻り、隊服の留め金をゆるめ、脱いだ帽子を寝台にほうった。
義手である左腕をはずした彼は、じっとそれを眺めながら沈黙している。
『 貴方の証言があれば話は別よ 』
「……」
先ほどのハナム王妃との会話は、半分はシアンの想定通り、半分は予想と違(たが)うものだった。
王妃はすべて打ち明けろとシアンに命じた。
九年前の真実──。タラン侍従長が王弟を罠にはめたという事。彼と手を組んだハムクール・スレマン伯爵が、寝所の警備兵を殺害し、王弟に濡れ衣を着せた事。
王妃の実家であるサルジェ公爵家は、タラン侍従長と対立している。よって侍従長に不利なこんなネタが舞い込んできたなら、その証言者を不当に扱いはしないだろう。
ハナム王妃と接触すれば、サルジェ公爵家がこちら側につくだろうとは予想していた。
タラン侍従長が用意した偽の書状も残っている。
しかし
これらの証拠が決定的になる為には、当時の状況をもっともよく知る人物の証言が不可欠──つまり、王弟自身の証言が。
「──…ふっ」
いったいどうして……そんなマネができようか
「そんな事ですむのなら初めから……っ」
馬鹿馬鹿しさにこぼれる笑いをこらえながら、はずしていた左の義手を装着し、肘当てと繋がる布をぐるぐると巻き付けた。
「失礼する」
「──?」
「ハムクール・シアン・ベイオルク(王宮警備兵)。いらっしゃるか」
「…このような時刻にどうされましたか」
「至急確認を願いたい事がある。扉を開けて頂きたい」
「……」
その時シアンの自室の扉を、外から叩く者がいた。