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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第27章 散花無惨 (チルハナ ムザン)
「手口…‥!? とは……どういうことですか……」
「とぼけたところで許されると思うな。スレマン伯爵のご病気は、医官にみせて原因を突き止めてある」
「……原因?──…フっ、‥ただの酒の…‥呑みすぎ、では?」
「いいや、毒だ」
「──…」
毒と言われて、シアンは表情こそ変えなかったが、僅かに動揺していた。
スレマン伯爵のあの状態は、鉛中毒だ。
鉛(なまり)自体は強い毒では無い。むしろ酒の中に鉛が含まれていることは、医術をかじった者なら誰もが知っている。
よってシアンが毒を盛った証拠とはならない。
「黙ったな?図星だろう?」
「……」
ぐったりと動かないシアンは、ふと脳裏にバヤジットの姿を浮かべた。
スレマン伯爵を中毒にまでおとした手管(てくだ)を、打ち明けたのはバヤジットひとりだ。
もしやバヤジットが伯爵家に伝えたのだろうか……そんなふうにぼんやりと考えて
…………フッ
有り得なさに思わず笑った。
バヤジットがそんな真似をするはずない、と。シアンはわかっていた。
「なにを笑っている!? 死を前にして気がふれたか」
「…っ…僕は毒など飲ませていない」
仮に手口がすべてバレているとして
自らの落ち度であるから、大人しく死を受け入れる?
……
……シアンにそんな気はさらさらなかった。
「──毒?ふっ‥…冗談はおやめ下さい」
「貴様…!」
「スレマン様のアレは…‥酒に溺れた末路です。将官ともあろうに責務を忘れ…昼間から酒を浴び…卑しいクルバンに熱をあげた結果が‥あの醜態だ」
彼は相手が逆上するような言葉をわざと選んだ。
シアン達がいる貯蔵庫の扉は開いている。
男達に大きな声を上げさせ、地上にいる誰かが騒ぎに気付いて駆けつけないかと狙っているのだ。
「神の裁きがくだったのでは?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
「‥ぐぁっ!!」
それによって、逆上した相手からさらなる痛みを与えられることになろうと、構いやしない。
シアンは蹴られ殴られながら、わざと大袈裟に声をあげた。