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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第27章 散花無惨 (チルハナ ムザン)

 残った薬は利用価値がないので床に捨てる。

「偉いね、我慢できて」

「へ、へへ……今日のシアンは……優しいな……」

「…口の中も切ってるからあまり喋らないで。大丈夫、足の怪我も……深くはない。ここを出たらバヤジット将官に見せよう……ッ……すぐに医官を」

「……」

「すぐに医官を…呼んでくれるさ…っ」

「ん……ハァ、………そおだな」

 口の端をゆるめたオメルは、瞼をおろし……穏やかに笑った。

「やっぱシアンは…………」

「……」

「……、へ……まぁ……いっか」

 目を閉じたオメル。

 シアンは背中まで腕を回し、彼を強く抱きしめた。



 抱きしめた手が……ゆっくりと離れて、最後、オメルの頬を撫でると

 オメルはくすぐったそうに首を傾げた。


「……なンか……ぼやぼやする」

「…ああ、喋らず、そのまま…おねむり」

「そぉ…する………………」


 閉じた目から、再び涙が滲み出る。

 それを指ですくって、彼から手を離した。







 シアンが立ち上がる。


 オメルを見下ろしたまま一歩、二歩と後ずさる。



「……ね……シアン……」


「……」


「バヤジットさまのお屋敷に……オレの荷物……あるから」



 彼は、男達が落としていった湾曲刀を床から拾い


 震える足で立ち尽くした。



「そンなかにある……オレの宝物…──」


「……」


「…シアンにあげる」


「…いらないよ」



 刀を持つ腕が信じられないくらいに重たい



「あの白い花は君の物だ。……いつか君の故郷をあの花で真っ白に染めるんだろう……!?──…それが君の夢だ」


「…………」


「だったら……その夢を叶えるまで、大事な宝を手放すべきじゃない」


「…………はなすんじゃないよ」



 痛みの感覚が遠のき

 ぼんやりと鈍る頭──

 オメルは壁に背中をあずけて、だらんと手足を脱力させた。




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