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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第28章 引き返せぬ運命
それだけなのだが、迎えたバヤジットは声を震わせた。
「どうした……!? 傷だらけじゃないか……!?」
暗いがひと目でわかる。
シアンの隊服は乱され、砂にまみれ、冬だと言うのに上着を来ていない彼の手足は、擦り切れていた。
こちらを見ようとしない顔もきっと傷だらけに違いない。
「……夜分に、失礼致します」
「は?──お、おい!」
シアンは軽く頭を下げると、バヤジットの横をすり抜けて勝手に中に入ってきた。
バヤジットが止める隙もない。
困惑して見守るバヤジットは、シアンのぎこちない歩き方を見て、やはり彼が酷い手傷を負っているのを確信した。
「シアン!その怪我はなんだ?」
「……」
「 …ま!まさかお前が王宮警備兵になった事をよく思わない連中に襲われたか!?」
「……いえ」
「っ…? どう…した…?その先に用なのか?…オメルはもう寝ていると思うが」
バヤジットの屋敷は他の貴族と比べて広くない。
シアンが向かう先にいくつも部屋があるわけではなく、バヤジットの予想どおり、彼はオメルの部屋にはいっていった。
ノックもせずはいったその部屋には
当然──誰もいなかった。
「オメルは帰っていないようだな…?」
「……」
「……!」
状況が掴めないバヤジットが部屋を見回してそう言うと、それまで顔をふせていたシアンが、首だけ回して横顔を見せた。
「オメルはもう戻りません」
「何を言ってる?いや、お前──ッ その返り血はどうした……!?」
白い横顔に散った赤──
軍人であるバヤジットは知っている。それは人間を殺した者にこびりつく返り血だ。