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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第28章 引き返せぬ運命
「…ハァッ…待て…!止まるんだ!」
「──…ぅッ」
ガシッ ───‥!!
玄関のドアにシアンが右手を伸ばすと
その腕ごと、バヤジットが背後から彼を捕らえる。
ギュウウウ...!!
「‥ァッ‥‥ク‥‥!!」
太い腕が力をこめて抱き締めてくるので、重傷のシアンの身体が痛んだ。
だが
それだけじゃない
もがく想いも、叫び出しそうな心も、バヤジットの腕が強引に引き戻すから、……堪え難かった。
「シアン……!! お前は……!!」
「ハァッ……ハァッ……」
「──…泣くのを堪えてどうする!?」
「は……!?」
「そのまま泣け……そうだお前は泣くべきだ。涙を流せば、お前がっ、自分でどれだけお前自身を苦しめているのか、わかる筈なんだ……!!」
バヤジットにとってはオメルの事が唐突すぎて、いったい何が起こったのか…その断片すら推し量れない。
だが先ほどのシアンの横顔でわかるだろう?
深い悲しみを与えられた彼が
魂の嘆きも、叫びも、揺らぎすら許されないまま
背負った宿命を果たす為に、たったひとりで進み続けようとしている。
「もう止まるんだ…!! 復讐なんてやめろ!そんなくだらない事を続けようと、お前がもっと苦しめられるだけだ…」
「復讐がくだらない?ではいったいどれほど高尚な理由があれば…僕に生きることが許されると?」
「馬鹿なことを言うな!お前が生きるのに理由など必要ない!」
「──…そうですね。貴方はそういう人だ」
「……っ」
たったひとり
生かそうとしたのはバヤジットだけだった。
他の誰もが死を望み、彼を貶め、殺そうと動いた。
実の兄でさえ──" 彼 " を救おうとしなかった。
そんな彼が、" シアン " としてまたこの世を生きていく為には……理由が必要だった。
目的が必要だったのだ。
たとえどのような犠牲を払おうと成し遂げなければならない、目的が。