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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第30章 捨て置いたモノ
タラン侍従長は己の過失を反省した。余裕な態度をよそおいながら、その心中は荒れている。
今、九年も前に謀殺した王子が、王都…クオーレ地区の中枢にまで潜り込んでいる。これが現実だ。
肌の色も髪の色も当時の面影はない。その為に 神に捨てられた子(ギョルグ) としての道を選んだと考えればつじつまが合う。
ハムクール・スレマンの乱心も復讐の結果なのだろう。どこから嗅ぎつけたのか謎だが、スレマンが九年前の協力者であったことも知っているのだ。
何よりも信じられないのが
王族という高貴な生まれの少年が、《クルバン》という最底辺の扱いを…自ら選んだコトである。
“ 復讐への執念──…いや、狂気か ”
人心を手玉に取る切れ者のタランでさえ、まったく予想しえない狂気だったのだ。
だがその復讐もここまでだ。
「どのみち貴様はこの牢獄で死に絶える、逃がしはせん。諦めて書状の隠し場所を吐け」
「‥‥‥」
「黙るか……小癪な」
黙秘するシアンの背に向けて、また鞭がしなる。
打たれた傷口はミミズ腫れとなり、彼の真っ白な絹肌に痛々しく浮かび上がった。
シュッ‥!
皮膚を裂かないぎりぎりの強さで何度も打たれ、そのたびにシアンの噛み締めた歯から声が漏れる。
「‥ッッ‥」
・・・パシン!
「──…ん?おい、止めろ」
しばらくの後、タランの命令で拷問が止まる。
タランが見ていたのは、鎖で繋がれたシアンの義手だった。
「妙な音がしたな…その腕。左腕を…義手を奪って私に渡せ」
「は!」
タランの命令に従い、男はシアンの鎖を解いた。
左の二の腕に固定された革ベルトと肘当てを引きちぎり、義手をもぎ取った。
汚れたそれを不潔そうに受け取り、布を解いたタラン。
カランッ
布に仕込まれていた小さな刃物が落ち、石の床で跳ねかえる。
刃物を無視して布をすべて解くと、中身は藁(わら)で編まれた偽物の腕──。タランはそれを、二度、三度と叩いて音を聞いた。
「この義手、硬い物を仕込んでいるな。内側は金属か?」
「──‥‥」
「それに空洞になっている……ナカ に、何か……」
叩いた音を聞いた後、今度は左右に振ってみせた。
カサッ
カサッ
「──…中に何か、入っているな?」
タラン侍従長が笑った。