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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第30章 捨て置いたモノ

 シアンは顔をあげないままだ。

「この隠し場所は盲点だったが、悪くない。やはり大事な物は肌身離さず持ち歩くべきだ、そうだろう?」

「ハァ‥‥ハァ‥‥ナンの、ことやら。‥‥それ をお返しください」

「返しはせんよ、書状はここに違いない。義手の中身をすぐに調べるとしよう」

 タランは奪った義手を袖の中におさめた。

「さて」

 目的の物を手に入れ、シアンにもう用は無い。

 だが男はもう一度…

 牢の前で膝を付いて座った。

「これで貴様は用済みだ……」

「‥‥‥」

「どう始末されたい?餓死か、鞭打ちか、死ぬまで家畜どもの玩具(がんぐ)となるか…。即死がよければ火槍(シャルク・パト)の被検体にしてやれるぞ?」

「‥‥どれ も…‥惹かれない死に方 ですね‥‥」

「もの足りなければ、さらに刺激的な方法も用意してあるが」

 楽しんでいる、それとわかる口ぶりでタランが話しかける。

 シアンはずっと床に倒れて動けないでいた。もう…返事の声すら虫が鳴くようだ。


 そんな彼の痛々しい姿に
 哀れで……みじめな、この結末に


 ──罪悪の念など欠片もおきない


 タランはそういう男だった。


「こんな底辺まで……よくぞ堕ちてきたものだ」


 格子を挟んで、内と外。足元に転がるシアンに向けて声を潜める。


「長い年月をとし、多くの犠牲を払い、血のにじむ思いで戻られたのでしょうね、 " 貴方様 " は…!逃げ仰せたならそのまま身を隠して暮らせばよかったものを…」


「‥‥」


「…何故、戻られた?」


「‥‥」


「それほど私を恨みましたか」


「‥‥‥‥興味‥‥ナイ」


「──…」


「‥…‥貴方に な‥ど、興味……ない‥…‥」


「ふっ…ならば、王座への執着か……?」


 か細い声が、今にも消えそうな息とともに吐き出される。

 そんなシアンに対しこの男は、さらに追い詰める事実を突きつけるのだった。



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