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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第30章 捨て置いたモノ

「──残念ですが貴方はどう足掻いても王座には付けません。私が邪魔をするからではなく…そもそもの " 権利 " が無いからです」

「‥‥‥…権、利?」

「ああ、王位継承権については殿下が九の歳の折に放棄されましたな。…ですが、もっと、根本的に」

「‥‥‥‥?」

 含み笑う、温和な声が不気味だ。

「異様に思ったことはありませんか?ただの一度も?」

 タランは横たわるシアンの身体をまじまじと見た。

「その容姿……その体格……肉付き……声……体毛にいたるまで、貴方のソレは、" 男 " として不完全だ」

「‥‥」

「王弟殿下が六つの時…高熱で倒れたことがありましたが、そこで薬を調合した医官が私の手の内の者だったのですよ。…念には念をいれました。

 おわかりか?

 その忌まわしき肉茎に──…もはや子を為す力は無い」


 手下の制止を無視して、格子の内側に手を入れる。

 
「男ではなく女ですらない……世継ぎの望めぬ貴方は、王族失格なのです、殿下」


 シアンの前髪を掴み持ち上げると、タランは顔を覗き込んだ。




 さぁ、絶望しろ

 傷を負い…腫れた顔を覗き込む。

 シアンは瞼をおろしており、タラン侍従長と視線が合うことはなかった。

 だが耳はしっかり聞き取った筈だ。

 王弟がずっと幼い頃から、すでにタランの計画は始まっていたのだと。

 彼を貶めんとする者の手で、王位継承権を手放す前から…カラダは王族として否定されていたのだと。

 王族として……いや、男として、人として

 不完全な " 何者か " に、成り下がっていたのだと。




「‥‥‥‥‥クク」



 では何故この男は、それでも王弟を殺そうと目論んだ?



「クッ…ククク……──ははははははは!!」


「……は?」


「ハッ!‥クク、ははっ、はははは!」



 次の瞬間 狂ったかのように笑いだしたのはシアンだった。

 これまで聞いた事のない声量で高らかに笑う彼は、その場の男達を凍り付かせた。

「ははははっ‥‥ふっ、ククク‥!!」

ギロッ‥‥

「…ッ…!?」

 シアンの瞼があがる。

 たっぷりと濡れた熱っぽい瞳が、目の前のタランを睨み据えた。


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