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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第31章 鳴り止まない声

“ 壁が揺れたぞ…? ”

 手を添えていた石の壁が…微かにだが振動したのだ。

 バヤジットは壁に耳を付けて奥の様子を伺った。

「…っ…こっちか」

 振動を頼りに道を選ぶ。急な異変に胸騒ぎをおぼえ、彼は足を早めた。

「まただな、次は…この道か…!?」

 振動は何度も立て続く。

 不審に思いそれから…500セクンダほど進んだ時だろうか。真っ暗な奥から、何者かの足音が迫ってきた。

ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!

「……!?」

 バヤジットは腰の湾曲刀を抜いて構えた。


ダッ!ダッ!ダッ!


「止まれ!!」

「はぁ!はぁ!はぁ!──おい!…おいあんた!
 誰だよあんた!?」

「お前こそ何者だ!」

「そのかっこう貴族さまか??はぁっ…助かった…!ああ、いや、助けてくだせえ!」

「…っ…何を言っている」

 奥から走ってきたのはひとりの痩せた男だった。

 男はバヤジットの刀にひるまず、喚きながら足へすがりついてくる。


「大変なんす!なンかいきなり…壁の明かりがどんどん爆発してってる!で、火が広がってそれで…貯蔵庫のも一緒に燃えちまって…っ」

「ばく、はつ……!? 燃える……!?」

「他の奴らも逃げ回ってるんす!でも道がわからねぇっ……走ってるうちに真っ暗になって何も見えねぇし…!」

 男の言うことは意味不明だった。

 燃える?この奥で火事が起こっているのか?こんな地下通路で?

 バヤジットは足元の男をまじまじと見下ろした。

 そうだこの身なり…こいつは貴族ではない。まさかこいつは……!?

「おい、落ち着け」

「やべぇ…マジでやばいンすよ!このままじゃ死んじまいますって!」

「…ッ──落ち着け!」

 半狂乱の男を、バヤジットは足で払った。

「生きたければ冷静になれ──…いいな?」

「は…は…はいい…!!」

「逃がしてやるから落ち着いて答えろ。……お前は平民だな?」

「え?は、はい」

「何故地下にいる?どこから入った?」

「なぜって…仕事っすよ!くっせぇ臭いのもん運んで、それ使って 変な粉 作るんすけど、…あとは…鉄の玉の中にそれ入れて……」

「……」

 バヤジットは目を細めた。

 この地下通路…たんにクオーレ地区への侵入経路と思っていたが、違うらしい。

 この地下で秘かに何かを作らされているのだ。


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