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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第4章 掌握する者
「これが帝国の策略だと?何の根拠もありますまいに!」
「落ち着かれて下さい。先のクーデターで新しい皇帝が即位して以来、帝国の態度はますます高圧的になっています。ですから、奴らの繁栄は我らキサラジャの水の恩恵にすぎないのだと…思い知らせてやる良い機会なのですよ」
「……!」
タラン侍従長は、ラティーク公爵家の当主として、もう十年もの間この議会を掌握している。にも関わらず歳は三十五と、長年侍従長を務めているにしては異例の若さであった。
いまや彼に反論できるのは、同じく公爵のサルジェ家くらいだ。
「その仰りよう──…っ、まさか、この騒ぎはタラン殿の仕業(しわざ)ではありますまいな…!?」
「…ふふ」
「…っ…答えたまえ!」
「残念ながら私は無関係です。サルジェ家当主ともあろう御方が、そのような無礼な詮索はおやめください」
「く…っ」
「では審議に入る──。大人しく帝国にカナートを渡してやるべきと言う者は、挙手を」
黄褐色の肌に、赤みがかった茶色の艶髪。
端正な面(おもて)に半月のあご髭を垂らし、品よく笑みを見せたタランは、他の侍従達をぐるりと見回した。
タランと目が合った者は、ニヤリと口角を上げるか、静かに目を伏せるか…
どちらにせよ、手を挙げる者はいない。
「‥‥‥‥ッッ」
「では異論は無いですね?反対多数によりこの議題はここまでと…──」
「このままでは国は崩壊するぞ!」
この場にいるのは、ひとりを除く全員、タランの息のかかった侍従なのだ。
たったひとりの主張など、犬の遠吠えと変わりない。
「この騒ぎで、キャラバンが我が国を避けて通るようになった。街道沿いの平民達は稼ぎを失っている!帝国からの返礼品も無いなかっ…民への支給をいつまで止めておけるとお考えか?」
「くだらない質問ですね。先に折れたほうが負けなのですから、我ら祖国のため、多少の犠牲はやむなし…。だいたいこの程度の危機、民が自らの力で乗り切らずしてどうしましょう」
「なんたる言い草っ、侍従長としての誇りはあるのか?」
「国を思えばこそ、ですな」
タランは涼しい顔で、遠吠えを退けた。
「では次。国境に配置した騎兵師団からの報告によると──…」
彼にとってこのように議会を開く意味など、合って無いようなものであった──。