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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第4章 掌握する者



──…


「取れ、隊服だ」

 司令部を後にして宿舎へ向かうシアン。先程の衛兵が案内人となり彼を先導していた。

「とりあえず見習いのだがな。礼服は後日用意させる」

 着崩した衣から見えるシアンの胸元をチラチラと覗きながら、男は鼻の下を伸ばしている。

 シアンはそれに気付いているのかどうなのか…。

「……お前、そっちの腕も使えるのか?」

「 無い のは肘より下からなので。…手首と指は自由がきかないですけれど、それ以外は動きます」

 作り物の左腕に、ごく自然な動きで隊服をかけるシアンは、一見するだけでは義手であると気付きにくい。

 物珍しく眺める男と宿舎の通路を歩きながら、これから自室となる場所へ連れられていた。



 宿舎は司令部と同じ四階建て。

 両側に部屋が並ぶ通路には、ところどころ " 風抜き " となる吹き抜けが設けられている。

 キサラジャの建物は砂の侵入を避けるためにほとんど窓がない。しかしそれだけだと蒸し風呂のように熱が籠もるため、こうして下から上へ風が抜ける場所を作るのだ。

 こうすると熱い空気は自然に上昇する。そして、上に溜まった熱を横風で強制的に追い出すことで、さらに下層の空気が引き上げられ、窓がないにも関わらず屋内には常に微風が流れるという仕組みだ。

 最上階まで続く穴を見上げて立ち止まったシアンの髪も、その風にあおられてパサリと翻(ひるがえ)る。


「どうかしたのか?」

「いえ……今日も此処は騒がしいな、と」


 建物の中を下から上へ抜ける風の音が、低く長く空気を震わす。まさに竜の咆哮(ほうこう)に似たその音を聞きながら、シアンは目を閉じた。


「…?よくわからん奴だな…」

 男にはそれが聞こえないらしい。

「いちいち止まらず歩け!ほら、ここが今日からお前の寝室だ」

「ここが?…何故でしょう。寝室と呼ぶにはいささか広すぎませんか?」

「そう遠慮するな、住み心地は保証する」

「そうですか…」

 気乗りしないシアンの背後から、強引に男が室内に押し込んだ。





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