この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第32章 焦がれる身体
鉄の格子に閉じ込められていたのは黒毛の猟犬と──裸で倒れたシアン。
声の出せないシアンに代わりけたたましく鳴く猟犬は、必死に牢から出ようとしていた。
それもそうだ。広くはない牢の中で炎があがっている。犬は火に怯えているのだ。
「炎…!? あの瓶(かめ)、油壺か?」
燃えているのは牢の隅に置かれた瓶だった。もし水ならこうはならない。臭いからして、中身は油だ。
「シアン危険だ!火から離れろ!」
「‥‥‥」
咄嗟に離れろと叫ぶが、シアンは動かない。
最悪の予感がバヤジットを襲い、その場に膝から崩れそうになるが…しかし、まだ早いぞと、踏みとどまった。
「…っ…すぐに出してやる」
彼は腰のクシャックから小刀を取り、牢の錠へ振り下ろした。
刃が欠けるほど強い力で何度も殴り付け、すべて割れて役に立たなくなったら、今度は鞘のほうを叩き付けた。
ガキンッ!
変形した錠を床に落とし、すぐに扉を開けた。
真っ先に飛び出した犬が猛スピードでいなくなる。
代わりに中へ飛び込んだバヤジットが、横たわるシアンを抱き寄せた。
「シアン!!」
「‥‥‥‥ァ」
「……!」
息がある。
シアンは生きていた。
目は閉じており、声も無く、全身に酷い怪我をしている……けれど呼吸はしていた。
抱いた腕の中で、弱々しいが鼓動も感じる。
「何が…あったんだ」
無事とわかり安堵する気持ちと、耐えきれない怒りが…同時に込み上げた。
ボロボロに傷付いたシアンの身体。見るも無惨だ。とくに背中の傷は酷い。
鞭で拷問された痕だ。
左の義手はもぎ取られ、右手には鉄の手枷がはめられていた。
“ ──…!手枷が黒く焦げている…… ”
シアンの細い手首にはめられた手枷には、端が欠けるほど何度も打ち付けた痕跡があった。
「まさかコレの摩擦で油に火をつけたのか…!? 犬の声で自分の居場所を知らせるためにっ…」
油壺が燃えたぎるすぐ横で、バヤジットの垂らした汗がシアンの胸に落ちる。
ピチョン
シアンの瞼が微かに動いた。