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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第32章 焦がれる身体

「………はぁっ………はぁっ……!!」

 戻りの地下道は、バヤジットの呼吸がはっきり聞こえるほど静かだった。

 平民達は逃げ終えたのか。周囲には気配がない。

「はぁ……っ」

 壁の燭台がなくなり、暗闇に戻り

 頼れる目印は、分かれ道に落としてきた光油(カンデラ)の小さな炎だけとなる。

「ぅ゛…ッ──!!」

ドサッ…

 再び倒れたバヤジットが、シアンを潰さないよう咄嗟に身体の向きを変えた。


ズキン‥‥!


「ちッ…」

 頭痛と耳鳴り…。煙を吸ったせいだ。

 実際、壁の燭台が爆発したのは迷路の奥であったから、他の平民達のようにすぐ逃げていれば害はなかっただろう。けれどバヤジットはシアンを探して火元の近くをさまよってしまった。

「まだだ……まだ……!」

 毒針の痺れもまだ治っていない。

 力が抜けてしまいそうな足を…それでもバヤジットは前に踏み出した。

 抱きかかえていたシアンを、今度は背中にのせる。

 片手を壁にそえ、片手で地面を押しながら

 

 歯がゆいほどの速さで、一歩、一歩



「……はぁっ‥‥は…!」


「‥‥‥」


「…ッ─ぅ、く、‥おおお…!!」



 死ぬな

 息をしろ

 頑張れ

 まだ……耐えてくれ

 必ず助ける



 ぐったりと背負われたシアンの耳の奥で、彼の声が鳴り続ける──。



「───‥ハァ‥‥ハァ‥‥」



 ねぇ…どうして?



 声の出ないシアンが心の中で返していたのは、そんな言葉ばかりだった。






──




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