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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第32章 焦がれる身体

 ドサリと、とうとう男の身体が力尽きた。

「くっ…!!」

 最後の力をふるい のぼりついた場所で腰を下ろす。

 顎を上げて見上げればそこは…隠し階段の入口だ。

「シアン……、外、だ」

 そこは廃墟となった神殿跡地。

 バヤジットが地下に侵入した入口へ、彼等は無事に戻ってきたのだ。


 黎明(れいめい)を告げようとする外の空は、地下の暗闇に比べればずっと明るい。

 けれどいつものように砂に覆われたこの季節。気温は低く、弱った人間にはかなり厳しい環境だ。

 バヤジットは動く片手で隊服の留め金をはずした。

 肌着のみとなった彼は、脱いだ上衣をシアンに被せた。

「シアン…!…おい」

「…ハァ…ハァ」

「…っ…目を閉じるな…眠るな、まだ…!」

 大きな隊服で裸のシアンを包んでやったが、彼の身体は細かい痙攣をおこしている。

「寒いのか…!?」

「ハァっ‥‥ハァ、ハァ」

「…っ」

 冷静にシアンの容態を見たバヤジットは、苦しそうに息を吐き出す様子に動揺した。

 寒いのかと思い抱き寄せた身体は……

 むしろ、かなり熱くなっている。

“ 酷い熱だ……! ”

 顔は赤く、額も熱い。

「しっかりしろ!」

「ァ‥‥ッ」

「っ…すまん、傷に触ったなっ…」

 とくに、鞭打たれミミズ腫れとった傷口が酷かった。背中全体で炎症をおこしており、痛みも強いに違いないのだ。

「‥ハァッ…ぅ、ぁ‥‥!」

 バヤジットの腕の中で、シアンがぎゅっと身体を丸める。

 痙攣を止められず…ガチガチと歯音をたてながら眉を寄せて苦しむ顔は、見る者の胸をも苦しめた。いても立ってもいられず、バヤジットがまた立ち上がろうとした時──

「待ってろ!すぐに医官にみせてやる」

「‥ッ‥ハァ‥、───‥っ」

「……!?」

 ふいに…顔をあげたシアンが

・・・チュッ

 切れて熱を帯びた…唇を、バヤジットの喉元に押し付けた。



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