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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第32章 焦がれる身体


「シアンっ?」

「‥‥ッ」


 バヤジットの肩に片手を置き、ぐっと押す。

 シアンを胸に抱いていた男の身体が仰向けに倒される。

 何も言わないシアンはまた、バヤジットの肩に噛み付くようなキスをした。

‥ヂュッ

「く…!?」

 突然のことで男はろくに反応できない。

 その間にもシアンの手が……肌着の内側に滑り込む。

「…っ…シアン、待てっ…俺だ」

「‥ハァ‥ハァ…!」

「俺はバヤジットだ!…っ…冷静になれ、落ち着け!」

 きっと熱で意識が朦朧(もうろう)とし、混乱している…!

 そう思ったバヤジットがやっと動き出し、シアンの両の肩を掴んで引き剥がした。

「よく見ろ…っ」

 慌てて顔をのぞきこみ、彼と目高をそろえる。

「わかるか?俺だ」

「‥‥‥?」

「そんなことしなくていいっ…お前を牢にいれた奴はもういない!もう……大丈夫だ」

「──…」

 バヤジットと目を合わせたシアンは無言だった。

 両肩を掴まれたシアンは、ゆらりと首を揺らして……そして傾ける。

 おぼろな瞳が半分ほど現れて、そして長いまつ毛に遮られて見えなくなるのを二度、三度と、繰り返す。

 バヤジットに諭されて少し落ち着いたのか、ゆっくりと、相手の肌着から手を抜いた。


“ …っ…よかった…呼吸も少しはマシになったか? ”


「シアン……?」

「……ハァ‥……ハァ‥……ハァ……」

「………!」


 開いた唇から重たい息を吐き出す。


 その弱った吐息ではもはや微かにしか揺れない生成(きなり)色の乱れ髪を、上部の出口から吹き込む冷たい夜風が巻き上げた。


 それと一緒に、バヤジットの鼻と口元を覆っていたターバンが…パサりとほどけて落ちていく。


 息を呑んだバヤジットへ、首を傾いで虚ろに見つめたシアンの顔が──まっすぐと近付いた。



「…ハ…ッ、ハァ、‥‥!!」



チュ‥‥ッ



「…ハァっ……‥!
 …すま ない、‥…バヤジット……!」


「…ん…ッ…」


「寒い、のは──…‥苦手なのだ…‥」



 シアンはバヤジットの唇にすがりついた。

 震えながらも強引に吸い付き……吐息のあわいで、男に侘びた。




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