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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第33章 復讐者の記録──肆

 砂避けの隔壁(かくへき)をくぐって街から出ると、夜の騒がしさがシン──と遠くなる。

ガッ──!

『 ッッ…! 』

 その瞬間 背後から何者かが現れ、青年の口をふさぎ拘束した。

『 殺すなよ 』

 捕らえられた青年は、ヤンがそう言って、自分を掴まえている背後の者に命じるのを見た。

 その時のヤンが使ったのはキサラジャの言語ではない。

 外の国の──帝国の言葉だと青年はわかった。何を言ったのかもわかる。娼館には帝国人も多く出入りするため、自ら学んで会得していた。

 口を塞がれ息苦しさに前を睨むと、ヤンの周りに十数人の男達が集まってくる。

 皆、商人のような格好をしているがそうではない。統率された動き、そしてヤンの前で腰を下ろし跪くまでの所作……

 彼等は武人だ。

 頭を垂れて集まったその者達を、温度のない表情でヤンが見下ろす。

 すると、先頭のひとりが口火をきった。

『 お待たせ致しました──…太子(たいし)様 』

 ヤンに向けて、帝国の言葉でそう呼びかけた。



 いぜん身動きの取れない青年は、一連の光景を前にして驚くと同時にどこかで納得する自分にも気付いていた。

 大人しく見守る青年の前で、男のヤンへの呼びかけは続いた。

『 迎えが遅れた事をお詫び申し上げます。簒奪者の手から帝(みかど)の命を護れなかったばかりかっ…御身をこのような場所に奪われてしまっていたなど… 』

『 …… 』

『 ですがやっと探し出すに至りました。どうか我等と共にお戻りください!国に戻り奴の首を討った暁には、奴の暴政で疲弊した民も、必ず太子様を迎え入れるでしょう 』

『 ……兵はどこだ? 』

『 国境近くの村に集めております。出陣の用意もできております故、すぐにでも戦いましょう。太子様の姿を見たなら兵の士気もあがります 』

『 ふっ……髪も肌も目も、すべてが変わった俺だがな 』

『 いいえ太子様、亡き先帝を知る者ならわかる筈です。貴方にはその面影がある 』

『 父上の面影か… 』

 鼻で小さく息を吐く。馬鹿にした時のヤンの笑い方だと、見守る青年にはわかった。


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