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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第33章 復讐者の記録──肆
もっと他にねぎらいの言葉をかけてやればいいのにと思いながらヤンを見ていると、くるりと振り向いたヤンが、冷めた態度を一転させて明るく話しかけてきた。
『 悪いなぁシアン、苦しかったろ?いま離してやるからな 』
拘束している男を顎で使い、青年を解放させる。
『 …ケホッ…ケホッ 』
『 お前の問いへの答えになったか? 』
『 ええ……まぁ 』
呼吸を許された青年は、返事をしながらなお…警戒を強めた。
彼を解放した男はすぐ後ろで様子を伺っている。伏している者達も、皆が刀に手を添えて、この青年の動向を見張っていた。
『 ……貴方は帝国の隠し皇子、というコトですね 』
『 その通りだ 』
間違った事を言えばすぐにでも斬り殺されるだろう。青年の命は確実に今──ヤンの手中にあるのだから。
『 どうしてこの街にいるのかを聞いても? 』
『 簡単だ。" 人買い " に捕まり娼館に売られた 』
もう面倒になったのだろうか。初っ端から適当な説明をしてくるヤンはいつもの調子だ。
青年は改めて聞き直す。
『 …っ…確か十二年前に帝が崩御したのは…流行り病のためと言い伝えられていた筈。跡継ぎとなる太子(たいし)も同じ理由で死んだのではなかったのですか 』
『 いいや違うね、先帝の死因は毒殺 』
『 毒殺?それは… 』
『《奴》が仕組んだ事だ 』
奴(やつ)。そう口にするヤンの声色は……ああそうか、あの時のものと同じであった。
《 殺したい奴がいるから……生きているだけさ 》
呪いかけるようでいて愛憎にも似た、重くるしい激情を静かにたたえた声──。
ずっと、殺す機会を待っていたのだ。
父を謀殺され自らも命を狙われた太子は、母方の親族の計らいでなんとか国から逃げ出した。
しかし隣国へ向かう道中で馬車は盗賊に襲われ、太子は人買いの手に渡った。まさか捕らえた少年の正体が帝国太子であるなど賊も思わなかっただろう。綺麗な顔の少年は、そのまま娼館に売られてしまった。