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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第33章 復讐者の記録──肆
『 ──…見失うな、シアン 』
『 ……!? 』
『 今のお前は目の前の手段にすがりつき本来の目的を見失ってるぞ 』
『 なん…だと…!? 』
『 これ以上 色街(あそこ)で客をとったところで、無駄なコトだと言っている 』
『 貴方が僕の為すべき事の…いったい何を知っている! 』
『 ──知ってるが? 』
珍しく真剣なヤンの態度はかえって青年の焦りをあおる。
声を荒げた彼に対し──ヤンは懐からひとつの封筒を取り出した。
その瞬間、青年の表情が固まった。
『 何故……貴方がそれを持っている 』
『 そこは話の論点じゃないな… 』
『 っ…返してください 』
『 返さねえよ 』
細く長い指ではさんだそれは、赤色の封蝋が見えるように顔の横に掲げられる。
それは青年宛てに届けられた手筒だ。
誰にも見つからないよう隠していた。
半年前に届けられた…近衛隊への推薦状。つまり《クルバン》への招待状だ。
『 本当はお前自身も気付いてただろ……。今のままでは、王宮に " 戻ったところで " 勝ち目がないと 』
『 ──…! …は?…何の、こと 』
『 とぼけるのは無意味だからやめとけ面倒臭い。クルバンとして王宮に戻ったとて、過去にお前を追い出した連中に邪魔を受ける。すぐに死ぬだろうな。それを自覚しているから…お前はこの招待状をもてあそんでいる。違うのか? 』
『 ……っ 』
青年は黙った。
同時にヤンが恐ろしかった。何もかも見通しているのか、この…どこまでも深く赤い蠱惑的な瞳で。
青年が大人しくなったので、ヤンは取り出した封筒を懐に収めた。
『 推薦状は手に入れたんだ。…お前は次の武器を見つける頃合いだろう。俺の国で探せ 』
ガタゴトと荷馬車が揺れる。
一団は街道に入った。帝国に着くまでは隊商(キャラバン)にふんするつもりのようだ。