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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第34章 崩壊
玄関に戻ったタランを使用人が迎える。上衣を脱いで渡し、タランは自室に向かった。
“ 万一に備えた " 処理 " はした。水の底では調査もできまい。しかし、平民(かちく)はやはり外に逃げていたか…あの複雑な通路をどうやってぬけた? ”
広い公爵邸の一階にある彼の自室には、磨かれた石壁に一流画家の絵画が並ぶ。奥の壁にしつらえた暖炉には常に火が灯り、部屋の空気を温めていた。
「……そうか、バヤジットの仕業か」
憎々しげに呟きながら、彼は調度品の引き出しから、昨日しまっていた物を持ち出した。
藁(わら)で編まれた左腕だ。
汚れたそれを、くるんでいた布から取り出した。
“ あの者は……死んだであろうな ”
奪った相手の事を考える。
絶体絶命な場面で嬉々として笑う…薄気味の悪い最後の姿が脳裏に浮かび、義手を持つ手を震わせた。
爆発に巻き込まれたか、もしくは牢から逃げれずそのまま水の底か。だがもし…万が一にでも逃げ出していたらと…朝から気が休まらない。
タランは慎重に、義手の接合部から網目を崩していった。
乾いたワラの切れ目をほどくと、内側に筒状の鉄があった。適度な重さを持たせるためのものだろう。さらにその中に入っていたのが……
これだな
「こんなところに隠すとは、用心深い奴だ」
そこにはタランの予想どおり、ひとつの書状が隠されていた。
年季のはいった古い羊皮紙を広げ、タランはそこに書かれた陛下を名乗る " 偽 " の書状を見た。
あの日、王弟による国王暗殺騒動の後──
手下に探させたがどこからも見つかりはしなかったこの書状、ハナム王妃が隠していたとは盲点だ。
それを今さら持ち出して…
「…っ…忌々しいことだ」
タランは書状を縦に破り、それを手に暖炉まで歩いた。
パチパチと薪が燃える上に書状を放る。
投げ入れられた羊皮紙が炎に当たり黒く焦げ、あっという間に灰となって跡形もなく消え去る。
それを確認した後、ゴミを捨てる感覚で、残った義手も暖炉に投げ捨てた。
「さて…次は…」
義手については燃え尽きるまでを見守らず、タランは暖炉に背を向けて離れる
・・・・・
その、──数秒後の事だった
控えめに燃えていた暖炉の火が、タランの背後で爆発した。