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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第35章 断罪審議

「……どういうコトだ……貴様は」

 ──貴様は地下の牢で死んだ筈では

 思わず喉まで出た言葉をタランは押しとどめる。

 うずくまるシアンは縛られているわけではなかったが、ろくに手当ても受けていない身体で動けないらしい…。床に片腕を付けて、顔を上げるのが限界だった。

 その場から動けないのはタランも同じだ。

「──…この者がすべて白状したぞ」

 そんな二人を見比べた帝国使者が、倒れたシアンを顎で指す。

「この者が、我が国に送り込まれた密偵だ。昨の夕刻…身柄を捕らえ尋問させてもらった」

「……昨日ですと?ふっ…馬鹿な」

「見た目に合わず手強い奴でな……ずいぶん手を焼かせたものだ」

 使者の言葉がデタラメであることはすぐに判明した。

 昨日であれば、シアンがいたのは地下の牢屋だ。日がな一日 男達に犯され……そして、タラン自らの目の前で痛め付けた。

 この傷を付けたのは帝国の尋問官ではない。

 そんな当たり前の事実であるのに、それを指摘する訳にいかないのが歯がゆいばかりだ。


「タラン様の密偵?…あれがか…?」

「あの者は確かっ…タラン侍従長様が王宮警備兵に命じられた賤人(せんにん)では…?」

「そ、そうか……どうりで……」

「…っ…影で遣えておきながら、それで結局はタラン様を売ったのか、卑しいクルバンめが」

「だがあの傷を見ろ…拷問の痕だ…!片腕も切り落とされているじゃないかっ…」

 タランが黙った代わりに周りの侍従達がザワつく。彼らも遅れて、連れられてきた密偵がシアンだと気付いたのだ。

 驚くと同時に納得していく。

 もともとシアンへの異例な采配(さいはい)を懐疑していた面々は、帝国の言葉をあっさりと信じた。

「……っ」

 口々に漏れでる周囲の雑音に苛立ち、タランは彼らをぐるりと睨み付けた。

「──静粛になされよ!」

 その剣幕に、あたりは再び静かになる。


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