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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第35章 断罪審議
「陛下が王室から出てこられた…?」
「…っ…しかも大神殿に現れるとは」
「何年ぶりだ…!?」
動揺がさざめきとなって侍従たちに広がる。
キサラジャ国王、スルタン(君主)・アシュラフ──。
日に焼けていない薄い褐色の肌。顔周りを隠す、癖づいた灰墨色の髪。豪奢な外套(がいとう)を羽織る身体は細く、健康体には見えないが、背高はそれなりにあるので貧相ではない。
彼は祭壇裏の戸の前に、立っていた。半分伏せられた目はここにいる者たちを見ているのかどうなのか…
わからないが、彼は無言で歩いて来る。
何かに怯えてばかりの王は政治に無関心で、王宮の外から出ようとしない──。それはここに集う者達にとっての常識であり現実。
それを自ら打ち破った若き君主は、侍従が座る椅子の間を通り過ぎ、神殿中央にたどり着いた。
「へ、陛下!」
初めに声をかけたのはタラン侍従長であった。
「この様な所へどう…されましたかな?もう御身体の具合は宜しいので…!?」
「……どけ」
「…っ」
しかしスルタン・アシュラフが返した言葉はそれきりだった。
彼はタランを横へと下がらせ、帝国使者達の──否、彼らが連れて来た傷だらけの青年の前で足を止めた。
すぐ隣のバヤジットは咄嗟に、膝をついて頭を下げた。
「──…お前」
跪こうにも身体が動かず、顔をあげようにも相手を直視できないシアンへ──低く…掠れた声が問いかける。
「お前の話は……真実なのか」
「……!」
「タラン侍従長が国を裏切ろうとしているコト……。偽りでないと……太陽神に誓えるか?」
放たれる声に覇気は無い。しかし嘘を述べる事は許されない不思議な力がこもっている。
シアンはずっと、見開いた目を床に向けていた。
ドクドクと騒がしい心臓の音…、それでもはっきりと届いた男の声に、返す言葉を持ち得ていない。
裸で傷だらけの醜い姿を晒して、何を言えというのだろう。
「……っ」
シアンはきしむ身体に鞭打って、右腕を床につき、ゆっくりと上体を起こした。