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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第35章 断罪審議
「ハァッ……ハァッ……」
投げ出された脚を折りたたむ。
アシュラフは無言で待っていた。
なんとか姿勢を正したシアンは、片膝をたて床に座り、頭を垂れ、君主の足元に視線をやった。
するとアシュラフは待ち構えていたようにして自らも腰を下ろし、シアンの顎を持つ。
グッ・・・
シアンの目は……相手の男に真っ直ぐ見抜かれた。
上を向かされ仰け反った喉が、緊張してゴクリと鳴る。
シアンは答えた。
「太陽神には……誓いません……」
「──…」
「国王陛下……!僕は
貴方様に、誓います……」
一音、一音を、確実に伝えていく。しかし力を込めればそれだけ、シアンの声は震えている。
「……。…そうか」
スルタン・アシュラフはそう言い残してフイと顔をそらした。
シアンの顎を離し、周りの者に目もくれずあっさりと引き返す。
祭壇前には彼が連れて来た裁判官たちが気まずそうにぞろぞろと立っていたが、君主が戻ってきたのですぐに道を開けた。
「陛下お待ちください!どうかこの無礼者どもに制裁を……っ」
そのまま去ろうとする君主の背を、タラン侍従長が呼び止める。
「この者達の言葉に耳を貸してはなりません!私をっ…私だけを信じるのです。これまでと同じです」
味方が消えた哀れな権力者の…最後の砦(とりで)。その若き君主はタラン侍従長にとっての人形だ。自分がいなければ何もできない、無知で、臆病で、愚かで、扱いやすく…
「陛下……!」
……故に愛しい、男(ひと)であった。
「──…」
すがり付く声に足を止めたアシュラフが
背中ごしに、侍従長へ対する言葉を、その声にのせる。
「……俺は誰も……信じることができない」
「…っ、陛下……?」
「 " 信じてやることができなかった "
今も昔も…。俺の周りにいたのは、ただそんな人間ばかりだろう」
「……」
それを伝える声は、悲しい、色をしていた。
扉が開き……そして閉まる。
突如現れたキサラジャの君主は、そのまま静かに去って行った。