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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第36章 復讐者の記録──伍

 そして相手が何も言わないのを見て、溜息とともに紫煙を吐き出した。

『 ハァ…、あれは戦そのものを変える代物(しろもの)だぞ?兵士でなくとも敵を殺せる…となればつまり、戦の終結に待つのは無差別な虐殺だ。城どころか村の全てを焼き尽くすまで殺し合うコトになる 』

『 …、そうですね 』

『 わかった上での裏切りだろうな? 』

『 ええ 』

『 ──…クッ 』

 柄にもなく真面目なフリをして話すヤンだった。しかし青年が変わらず温度のない声で受け答えをしているので、すぐに可笑しくなった彼は腹を抱えて笑った。

『 ははは!なるほど《 どーでもいい 》という顔だ…!やっぱりお前は最高だな、シアン 』

 まったく笑える状況ではないのだが…。ヤンの軽い態度に、周りの臣下達はヒヤヒヤと落ち着かない。

 今、詰問のただ中にいるこの青年は、宮廷内においてあまりに異質であるが故──こころよく思わない連中がたくさんいる。そういった者たちにとって火槍の件は見過ごせない重罪だ。

 これをきっかけに太袍官(たいほうかん)という地位から引きずり下ろさんと、狙う者ばかり。

『 で?お前の次の企みを聞かせろ 』

 しかしヤンは違う。

 試す言葉で、罪人である青年に問いかけた。

『 見逃して頂けるのですか? 』

『 いちおう聞いてやるだけだ。兵器の情報をキサラジャに流した次は……何をする 』

『 僕は…── 』

『 次の標的は何だ? 』

『 僕はこれから帝国の水源であるカナートを、…破壊し、キサラジャへ戻ります 』

 さらりと白状した青年に対して、部屋中から怒りの声が沸きたった。周章狼狽(しゅうしょうろうばい)の臣下は顔を赤く興奮させて罪人を罵倒する。

『 舐めた態度も大概だ!カナートを破壊などとっ…よくも言えたものだな裏切り者め 』

『 陛下!やはりこの者はキサラジャの間者でこざいます! 陛下のご寵愛をかさにきてっ…我が国を滅ぼさんとしているのです! 』

『 どうか厳粛な裁きを 』

『 謀反人へ死罪を命じてください! 』

 青年を殺すべきと叫ばれる。

 集められている重臣達は玉座のヤンへ何度も頭を床に付け、聞き入れられるのを願った。


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