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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第37章 痛みを映す鏡

 シアンを抱くバヤジットは自邸へと戻っていた。

 近衛隊宿舎にあるシアンの部屋は、何者かによって荒らされた状態らしい。何かを探した痕跡があると言うから、おそらくタラン侍従長の指示だったのだろうと…それを聞いたシアンには想像できた。

 バヤジットの手でそっと寝台に下ろされたシアンは、外套にくるまれたまま、理解できないという顔で相手を見上げる。

「また僕を部屋に閉じ込めるのですか?」

「そんな事は、もうしない」

「では……どういうおつもりでしょう。再び僕を家にいれるだなんて不用心ですよね?」

「……」

 シアンは相変わらず嫌味な言い方しかできない。

 相手の目的がわからないから警戒しているせいもある。

 そんな彼を下ろしたバヤジットは口をつぐんで…じっとこちらを見つめていた。

「……?」

 何を考えているのだろう。

 いつものように眉間にシワを寄せて強ばっている男の表情からは、何も判断できないのだ。

 その場に突っ立っているバヤジットが、やっと動いて寝台の──シアンの隣に腰をおろすまで、長い時間が必要だった。



「──…オメルの葬儀は、ちゃんと終えたぞ」

「……!」

 それから彼は脈絡なく、そんな言葉をかける。

「渡された本と一緒に供養した。これであいつは陽の国に迎えられたんだ」

「…そう、ですか」

 オメルの名を出されて一瞬 動揺したシアンだが、すぐに悲しい顔で目を細めて、すべるように寝台から降り立った。

 彼はバヤジットの足元で、額を床に擦り付ける。

 彼にできうる最大限の敬服だ。

「礼を言います…バヤジット様。僕の無礼な頼み事を叶えてくださり、感謝しています」

「…っ…頭をさげるな!」

 けれど当然、バヤジットはシアンのその行動を遮った。

 慌ててシアンの脇に両手を入れ、伏した身体を引き上げる。

「俺が…!!」

「…っ」

 引き上げられた拍子に、シアンをくるんでいた外套が床へ落ちた。


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