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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第37章 痛みを映す鏡
「俺がっ…オメルの話をしたのは……!! お前の為にしてやれたコトが、それしか浮かばなかったからだ。他に何もできなかったからだ…!! 」
シアンはバヤジットと向き合うかたちで、相手の腕に支えられた。真正面に見るバヤジットの顔は…歯がゆそうに歪んでいる。
「お前を助けたかった、守りたかったんだ…。だがお前は俺を頼らない!結局ひとりでタラン侍従長に立ち向かわせてしまった」
「バヤジット様…!?」
「ひとりで戦わせて、こんなに傷を負わせてしまった…!!」
シアンが受けた傷はなにも身体的なものだけではない。
深い傷を負ったのは心も同じだ。それはバヤジットにも筒抜けなのだ。バヤジットは助けられなかった自分を責め、悔やんでいた。
シアンの中で麻痺してしまった…ナニか大切な感情を、バヤジットが代わりに味わっている。
…そうだったのかと
シアンは理解した。
「……バヤジット様」
シアンは右手を、苦しむ男の頬に添えた。
「……僕は貴方を苦しめたい」
「シアッ…!?」
頬においた手を追って、シアンの唇がバヤジットのそれと重なった。
「貴方はもう…僕を映す鏡だ。僕が穢れれば、痛めつけられれば、代わりに貴方が苦しめられる」
「…っ」
「捨てた感情も…失った感覚もっ……貴方によって初めて完結する。貴方は囚われた、奴隷だ。僕に心を操られている奴隷だ」
口付けをしたシアンの目は潤んでいた。
そして笑っていた。
興奮しているとわかる息遣いが、バヤジットを唖然とさせる。
「やっと…わかりました…貴方に感じる可笑しな感覚の正体が…っ」
ふとした時にバヤジットに抱く心地良さ。
その感覚にシアンは何度も戸惑い、乱されてきた。そんな気持ちは自分に無縁の筈だと否定してきた。
だがどうだ?
理由さえわかってしまえばこんなに愉快じゃないか。
「貴方は僕の卑怯さも醜さもぜんぶ知っています。でも止められない、僕を殺せない。歯がゆいでしょう?苦しい…です よね?」
シアンは片膝を寝台にのせ、バヤジットの足の間に乗り上げた。
「シアン…」
誘惑の双眸(そうぼう)が迫る。
美しい顔で煽られて、カッと目頭が熱くなるのをバヤジットは感じた。