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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第37章 痛みを映す鏡

“ やはりお前は恐ろしいな… ”

 こちらを見下す表情が…バヤジットの心を掻き乱す。

 自分の想いはまったく届いていないのだと、ああ、よくわかるシアンの態度だった。

 これは報いなのだ。

 9年前、自分は彼を裏切ったのだ。味方を奪われ逃げるしかなかった彼を──守るどころか、傷付けた。
 
 そんな自分が今さら " 頼れ " と言ったところで

 …自分勝手に吐き出す言葉が、シアンに響くはずもない。

“ 手遅れなんだ、この俺が、信頼を得ようなどと。願っても叶うわけがない…!! ”
 
 だったら今の自分には何ができる?

 何が許されている?

 苦悩するバヤジットは──身体を擦り付けてくるシアンの背に腕を回して、抱き締めていた。



ギュッ...!



「──…」

「俺はもう " 貴方 " の臣下には戻れない…!」


 寝台に座ったまま、自身を挑発してくる細く傷だらけの身体を、太い腕で包み込む。


 抱きしめられたシアンの動きが止まった。


 この男の、この抱きしめ方…


 シアンはこの腕が嫌いだった。


「過去に戻り貴方を救えたなら…どんなにいいだろうか。だが戻れない!俺は貴方を裏切った " 指切り将軍 " だ。今は、シアン、お前の上官でしかない…」

「…っ…それなら、この腕はなんですか?まさか上官として部下である僕を守るとでも?」

「そうだっ…、──…いや

 それすら今の俺には許されていないだろうな…」

「ッ…!?」

 今度はシアンが、バヤジットに唇を奪われた。

「ん……!?」

 噛み付くように強く吸い付かれ、思わず喉で鳴った声はシアンの口内にとどまった。

 驚く間もなくざらついた舌が割ってはいる。  

 両手は二人の身体に挟まれて、抵抗できず、仰け反ろうとした首の動きも、男の大きな掌がはばんだ。


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