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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第37章 痛みを映す鏡

 シアンの身体が怯えたように跳ねて応える。

 それでようやく嵐のような口付けが止まった。

「─…ぷハッ‥‥ハァ‥ハァッ‥‥!!」

「どうしようもなく惚れているんだ…!」

「‥‥な…// ‥にを、言って‥‥!?」

 目を見開いて動揺するシアン。

 バヤジットは彼を寝台の上に引き寄せた。

 彼の腕にいざなわれ、シアンは仰向けに寝かされる。

 その上に覆いかぶさるバヤジットが、シアンの身体を敷布の上に押さえ付けた。


「…奴隷になれと言うならなってやる」


「……!」


「俺を好きに弄べ。お前が傷を負うたびに俺が悲しんでやるっ…。お前が侮辱を受けたなら、代わりに心を痛めてやる」


「…!?…ふっ、自分から願いでるなんて滑稽ですね?僕のような賎しい男娼に惚れ込むなんてっ…ずいぶん、物好きな…──ッ」


「黙れ」


 混乱を悟られまいと憎まれ口をたたくシアンだったが

 それを聞くバヤジットの手が震えながら肩を強く掴んできたから、ハッと息をのみこんだ。


「そうやっていつまでも自分を嘲(あざけ)り平気なふりを続けるなら──ッ…俺が、かわりに、お前に怒りをぶつけるぞ……!」


 男の声も震えていた。

 耳許で吐き捨てられた低音の声は、他ならぬ、シアンに対する怒りをあらわにしている。

 軽い口調で、いつも自分自身を貶めてばかりのシアンに

 自らを危険にさらすことをいとわないシアンに

 …愛しく思うからこそ我慢がきかなかった。

 
「思い知れっ…!」

「んっ…」

 再び唇を塞がれる。

 力強く身体をまさぐられる。余裕のないバヤジットの吐息が──手足が──シアンに覆いかぶさる。

 屈強な身体に抑え込まれて、シアンの華奢な肢体は敷布に完全に縫い付められた。

 逃げ場はない。

「…‥バヤ…‥ジッ‥‥!!」

 混乱するシアンが抗おうにも

 重すぎる激情が、口付けの嵐となって彼に襲いかかる。



《 俺はお前に惚れているんだ 》



 ──正気なのか?



 シアンには理解が及ばない。

 この男が、自分に惚れる?馬鹿げている。

 何かを企んでの言葉ならまだしも…バヤジットはいつだって真剣そのものだ。


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