この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第38章 新たな思惑
──…
それから翌々日には、シアンは王室の警備をするように正式に通達を受けた。
任命式のあった大神殿から直接王室へ向かうシアンを、いくつもの好奇の目が追う。
当たり前だ。今となっては彼を知らない者などこの王宮にひとりとていない──。
噂の的であるシアンを物珍しく眺める者
タランを裏切りサルジェ家に乗り換えたことを、疎ましがる者
今のうちに媚びを売ろうかと、値踏みする者
ただ単純に、彼の美しい容姿に見とれる者
…それらの視線が無遠慮に注がれる中、シアンは気にせず歩いていく。
立ち止まったのは、王の寝所の前だ。
「陛下」
シアンは外から声をかけた。
「ハムクール・シアン・ベイオルクでございます。陛下の護衛として、議会の通達を受けて参じました」
「──」
「侍従長様から、話はお聞きでございますか?」
扉の向こうから声は返らない。しかし、王が今日も寝所にこもりきりということはわかっている。
シアンは頭を下げた状態で、重たい扉に手をかけた。
ギィィー……
オイルランプがつらなる身廊(しんろう)の先に部屋がある。
その真ん中にある金模様の天蓋に、シアンは人の影を見た。
「……来たのか」
「……」
人影は動かなかったが、近寄るシアンへ問いかける。
その声のもとへと歩きながら、短いはずの身廊を、とてつもなく長く錯覚した。
天蓋の御前で、床に膝をつく。
「……、震えているのか、シアン・ベイオルク」
「…っ…いえ」
「面(おもて)をあげろ」
挨拶の為に頭を下ろそうとしたシアンの行動を制して、天蓋の声が、低くゆっくりと彼に届く。
震えている自覚はなかった。
けれど無理もない。
伯爵家の爵位を持ち、王宮警備兵でもある彼だが、もともとは平民ですらない賤人……
対して、目の前に相対するは、この国のスルタンだ。
大丈夫だ
なにも不自然じゃあない
シアンは無言で気を落ち着かせた。
すると
「聞こえていないようだな」
「──っ」
意識をそらしていた間に、語りかける声がシアンの真上まで近付いていたのだ。