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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第38章 新たな思惑


──…


 それから翌々日には、シアンは王室の警備をするように正式に通達を受けた。

 任命式のあった大神殿から直接王室へ向かうシアンを、いくつもの好奇の目が追う。

 当たり前だ。今となっては彼を知らない者などこの王宮にひとりとていない──。

 噂の的であるシアンを物珍しく眺める者

 タランを裏切りサルジェ家に乗り換えたことを、疎ましがる者

 今のうちに媚びを売ろうかと、値踏みする者

 ただ単純に、彼の美しい容姿に見とれる者

 …それらの視線が無遠慮に注がれる中、シアンは気にせず歩いていく。



 立ち止まったのは、王の寝所の前だ。

「陛下」

 シアンは外から声をかけた。

「ハムクール・シアン・ベイオルクでございます。陛下の護衛として、議会の通達を受けて参じました」

「──」

「侍従長様から、話はお聞きでございますか?」

 扉の向こうから声は返らない。しかし、王が今日も寝所にこもりきりということはわかっている。

 シアンは頭を下げた状態で、重たい扉に手をかけた。


ギィィー……


 オイルランプがつらなる身廊(しんろう)の先に部屋がある。

 その真ん中にある金模様の天蓋に、シアンは人の影を見た。

「……来たのか」

「……」

 人影は動かなかったが、近寄るシアンへ問いかける。

 その声のもとへと歩きながら、短いはずの身廊を、とてつもなく長く錯覚した。


 天蓋の御前で、床に膝をつく。


「……、震えているのか、シアン・ベイオルク」

「…っ…いえ」

「面(おもて)をあげろ」


 挨拶の為に頭を下ろそうとしたシアンの行動を制して、天蓋の声が、低くゆっくりと彼に届く。

 震えている自覚はなかった。

 けれど無理もない。

 伯爵家の爵位を持ち、王宮警備兵でもある彼だが、もともとは平民ですらない賤人……

 対して、目の前に相対するは、この国のスルタンだ。

 大丈夫だ

 なにも不自然じゃあない

 シアンは無言で気を落ち着かせた。

 すると

「聞こえていないようだな」

「──っ」

 意識をそらしていた間に、語りかける声がシアンの真上まで近付いていたのだ。


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