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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第38章 新たな思惑

 すぐに顔を上げた彼の眼前に、身体を屈めた相手の顔が迫る。

 バチりと射抜かれた瞳が泳ぐことさえ

 許されない空気が…首をしめて息を殺させる。

 動けない。

 儚げな影を宿した切れ長の目が、シアンの頬を、唇を、眉を、鼻の形を、そして翡翠(ひすい)の瞳をあますことなく流し見ていく。

 スルタン・アシュラフ──

 同じ翡翠の瞳を持つ若き君主は、そうしてまつ毛を半分ふせた。


「お前は…──」

「……?」

「生まれは何処だ?」

 アシュラフの視線が唇へと移る。

「そ……それは、陛下の耳にいれる価値もありません。かつての私は賤人でございます。家名も職も持たない、卑しい立場でありました故──」

 シアンの艶のある整った唇は、反射的にいつもの口上を読み上げていた。自らの出自を誤魔化すために、使い続けてきた言い回しだ。

「ですが、剣術の稽古はかかさずしておりました!今の私は王宮警備兵としての誇りを持って、この命に変えても御身を御守りいたします」

 シアンはいい加減アシュラフの視線から逃れたいと、右の拳を床に付けて、敬服の姿勢をとって頭を下げた。


 なんて危険な御方だろう


 たった数秒見つめられていただけで……


 目の奥が酷く熱い


「──…そのような答えはいらない」


「──!」


 だが次の瞬間、シアンは前の髪をわし掴みにされ、強制的にまたもや上を向かされた。

 太陽神の武器、獣角弓の刺繍がほどこされた帽子が、バサりと床に投げ出される。

 首が直角になるまで喉をそらしたシアンが顔を歪ませると、そこに男が被さる。


「‥‥‥‥‥‥‥‥!」


 そのまま唇を奪われ、シアンは目を見開いた。



 反射的に前に出た手を慌てて引く。

「‥‥‥!?」

ギリッ...

 身を後ろに引こうとすると、前髪をより強く引っぱられる。

 そのまましっとりと重なった唇は……数秒の後、戸惑うシアンの吐息を残して、離れた。


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