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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第41章 愛と憎悪
──
「──…陛下、これ以上は毒ですよ」
空気がシン──と静かになる、夜々中の刻、まだ起きているアシュラフ王へシアンが提言する。
「お休みにならないのですか?」
「……ああ」
王の前には酒のはいったアンフォラが置かれていた。
それを召使いにさせるでもなく、自身で手酌して……
飲むのをとめないアシュラフを、側で控えるシアンが心配している。
そして沈黙をもてあそんだのか、ふいにアシュラフが問いを投げた。
「お前は…今日が何の日か知っているか」
「いいえ」
「…少しは考えるそぶりを見せろ、愚か者が」
今にも眠りにつきそうな小さな声だ。
「そうですね……。思い当たるふしがあるとすれば、ひとつだけ」
「ふっ……そうか、珍しい奴だ」
「長い間忘れていました。ただつい先日に、…ある者に教えられ…思い出したのです」
「なるほどな…」
「──顔色がすぐれません。水をお飲みになりませんか?」
「ああ…わたせ」
ずいぶん酔いが回っている。
それが十分にわかるので、シアンはせめてと水を手渡した。
渡された水をとったアシュラフは面倒くさそうに口元へ運ぶ。
パリンッ──!
ところが、水をいれた器が指の間を滑り落ちて、石床の上で砕け散った。
「…ッッ…お怪我はありませんか?」
「ああ……」
「もうお休みになってください。寝台の用意は整ってありますから」
シアンは義手の左腕に彼の手をのせ、後ろから肩を持った。
ふらふらしているアシュラフを支えて、椅子から寝台まで導いていくと
ちょうどたどり着いた時、彼は敷布に倒れ込む。
「陛下…っ」
「………、………、………」
「…すでにお眠りですね」
寝息が聞こえたので、ほっと安堵する。
眠る君主にそっと掛け布をして、乱された敷布を整えた。
何故こんなにも無防備なのか。
それはシアンにもわからない。
初めての拝謁(はいえつ)…あれ以降のアシュラフは、シアンを問い詰めるようなことを一切してこない。
「…貴方は気付いておられるのですか?僕が何者なのかを」
「……」
「フ……まさか、そんな事」
そんな事が…あってたまるか
切なく瞼をふせて、寝台を離れる。
シアンは奥の間を出て、寝所の入口となる通路の壁に背を預けた。