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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第41章 愛と憎悪


───カン、カン


「……?」


 だが自分も眠ろうと、腰をおろそうとした時

 扉に付いた銅製のリングが外から打ち鳴らされる。来訪の合図だった。

 もちろん、客人が来る時間では無い。

「どなたですか?酒の追加は頼んでおりませんよ」

「……私です、シアン・ベイオルク」

「……!」

「ここを開けなさい」

 扉の傍には王宮警備兵が控えているはずだが、返ってきたのは女人の声。これは──

ギィィ・・・

「中へいれて」

 扉を開けたそこには、水杯をのせた盆を持つハナム王妃がいた。



「陛下はどこ?」

「すでにお休みです」

「そう……」

 いぶかしむシアンの横をハナム王妃が素通りする。

 アシュラフが眠っている奥の間には行かず、酒器が散らかる卓上へ、運んできた水杯をそっと置いた。

「その水を陛下へお届けにいらしたのですか?」

「……ええ。外の警備兵にはそう伝えましたわ」

「王妃様お手づから運びくださるとは驚きました。夜出歩くにはまだ肌寒かったでしょう」

 扉を閉めて振り返ったシアンは気付いていた。ハナム王妃が羽織っている外套(がいとう)の下は、寝衣だけだということに。

 そんな薄着で王妃が人前に出るなんて普通はありえない。

 水を届けに?……そんなもの

 わかりきった口実だ。

「…僕はお邪魔でしょうが、ここで黙って見張りをしているだけですから、どうか気になさらないで下さい」

 二人きりがいいのだろうが…立場上部屋を去れないシアンは、そう言って出口の前から動かなかった。

「気を遣ってくださるのね」

「当然です」

「ありがとう。……でもね無駄なのよ。たとえ酔いがまわった状態でも、陛下がわたしを求めたことなんて一度もない」

 察しがいいようで悪いシアンの態度に、ハナムは思わず笑っていた。

「義務で何度か契りを交わした、それもずっと昔です。今のわたしは名実ともにお飾りの姫よ。王妃としても役に立てず…女としても愛されない」

 笑う口許がかすかに引きつる。

 それからスっと扉前のシアンに目を向けた。


「孤独だわ」

「……」


 ハナムはアシュラフのいる寝台には向かわず、シアンのほうへ戻ってくる。

 その不可思議な行動にシアンの首が傾いたとき

 パサりと

 彼女の外套が、肩からすべり落とされた。


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