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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第41章 愛と憎悪
《 そこで薬を調合した医官が私の手の内の者だったのですよ。おわかりですか?その忌まわしい肉茎にもはや子を為す力はない 》
……ラティーク・タランの、あの言葉を信じるならば
当時のタランにとって、王弟という存在はたいした脅威でなかった筈だ。
世継ぎを為す可能性もなければ王位継承権も放棄している。そんな無力な子供を始末する必然性が、いったいどれだけあっただろう。
あの男は計画を持ちかけられたのだ。タラン以上に、王弟を疎ましく思っていた何者かに……。
王弟を、殺せと。
「……貴女がタラン侍従長をそそのかした」
「……!」
「貴女は陛下の筆跡をマネてあの書状を書いたのです。…後はそれを王弟の部屋に置き、罠にかかった彼がまんまと陛下の寝所にはいったところを…タランの手引きで捕らえるだけだった」
「な、何を根拠に……!!」
「計画どおり邪魔な王弟は消えました。……ところがどうです、陛下の傍にはいつもタランがいて二人は恋仲であるという噂まで出回っている。さぞかし不愉快だったでしょうね?次の標的はタラン侍従長へと移りました。せわしない御方だ」
「…っ…黙りなさい!!」
顎を掴んでいたシアンの手を払い、ハナム王妃が叫んだ。
顔に嫌な汗を浮かべている。
「…な…なんですのその話…全部デタラメだわ!書状を用意したのはタランよ。あなたを騙したのも殺そうとしたのもっ……わたしではないわ」
「……いや貴女だ」
「なぜ言い切るの」
「貴女が例の書状を持っていたからです」
近距離で声を荒げられて思わず顔をしかめながら、シアンが話していく。
正直、滑稽だった。
ハナム王妃もタラン侍従長も、どうして、あんな書状で騙せると思い込んだのだろう。
筆跡を似せたから、だからなんだ。
文字の癖、大きさ、筆圧、言葉遣い──。別の誰かが兄の名をかたり書いた物だと、王弟は一目で見抜いたのに。