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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第41章 愛と憎悪
「クルバンとして僕を王都に招いた貴女がそんな主張をしたとて……逆に貴女が貞操を疑われるのではないでしょうか」
「ば…っ…馬鹿を言わないで!
《 シアン・ベイオルクはラティーク・タランが用意した密偵 》──それがここ王宮での《 事実 》。あなたを近衛隊にいれたのだって当然タランだと思われていますわ」
「サルジェ家の紋章がはいった推薦状があるのに、ですか?」
「推薦状?あんなもの──…あなたを捕らえた後、お父さまの力でいかようにでも処分できますのよ!」
「……ふっ」
「……何を笑っているの?」
「そう簡単にはいかないと思いますよ。推薦状は今、あのバヤジット将官の手元にあります。……九年前の真相と、タラン侍従長への復讐を示唆した密書とともに」
シアンはその場で腰を上げた。
足元ではまだ立てないでいるハナムが床に両手をついている。
小さくため息をついたシアンが、彼女の帰りを促そうと出口の扉に手をかけた。
「正気なの……!?あなた」
「……」
「バヤジット将官は過去のあなたを救わなかった……! " 敵 " に自分の正体を明かす手筒を預けるだなんて、おかしいですわ。あんな男を信用するだなんて!」
「信用なんてしていませんよ」
ラティーク・タラン・ウル ヴェジール
ハムクール・スレマン・バシュ
ジフリル・バヤジット・バシュ
九年前に王弟を貶め、傷付けた男たち──。
《 汝、復讐を望むなら
此処王都に返り咲き
王宮の中枢、水の社まで来られたし 》
思えばあの密書が届いたことが、シアンの計画が動き出すきっかけだった。
復讐者として王都に戻る。
そうするようにハナム王妃が手引きした。
けれど
「けれど勘違いしてほしくないのは、僕の " 敵 " はあくまで今の僕を邪魔する者──。過去に彼等が何をしたかはどうでもいい」
「どうでもいいですって……!?」
「バヤジット・バシュは、あの方は今、僕の味方です」
復讐なんて…
シアンは何の興味もなかったのだ。
鉛の毒で錯乱したスレマン将官も
帝国に引き渡されたタラン侍従長も
目的のための障壁だったにすぎず、復讐とは関係ない。
だから、ハナム王妃が九年前に王弟を陥れたとして、それすらシアンはどうでもよかった。