この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第5章 籠の鳥の境遇
黄土色の肌に、栗色の髪。愛らしさが際立つ丸みを帯びた目元と、低めの鼻。
帝国人に似た容貌をしているが、商人と旅人が常に行き交うキサラジャにおいて、異国風の容姿をした人間は珍しくない。
身長はシアンよりも頭ひとつぶん以上小さかった。(これはシアンの背丈が、他人のそれより高めなせいもある)
「ところで君はこんな所にいて良いのですか?将官殿が見回りにきているそうですが、持ち場に戻ったほうが…」
「あ~あれな。へへっ」
「?」
「実はさっき叫んだのはオレなんだ。将官が来たってのはウソ!ああでもしないとあいつ等止めないし…。声色変えてみたから気付かなかったろ?」
「そうでしたか…!」
どうやらつい先刻、シアンは彼に助けられたらしい。
これでは流石に、彼を無下にできない。
今のオメルの好意丸出しの目は嘘に見えないし、…改めて一考してみれば、不快ではないのだから。
だから笑いかけるべきと思った。
微笑んで、礼を言おう
シアンはそう思った。
しかしここで彼は躊躇(ちゅうちょ)する。笑い方がわからない…。
下僕(げぼく)としての媚びた顔も、遊戯中の挑戦的な口元も、客や自身への侮蔑の笑みも──全て、仮面を取り替えるように使い分けるコトができるのに
こんな時に…自然に出てくる笑顔がない。
駆け引きの表情しか知らない自分
感謝の意は確かにあるのに、偽の笑顔を貼り付けるしかできない自分自身を省みて、シアンは笑うのを躊躇(ためら)った。
スゥ───
「えっ…?」
「…ありがとう、君のお陰で助かったよ」
シアンは笑いかけるのを諦め、代わりに、上げた左手をオメルの頬に添えた。
右手は水入れを持っている。なので左手だった。
黒い布に巻かれた義手は、触れた感触をシアンに伝えこそしないが、オメルには伝わる。
「う、うん……どういたしまして…//」
オメルは嬉しそうに笑っていた。