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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第43章 誓い
「わかったか?」
「かしこまり、ました…」
見つめ合う二人。
赤らんだ顔の輪郭をなぞるようにアシュラフの指が動く。
ごく自然と、二人の唇が再び重ねられようとした時──
窓の外でひときわ大きく鳥が鳴いた。伝令の猛禽(もうきん)が飛んできたのだろう。
「ぁ……」
そのお陰で我に返ったシアン達は、互いにそっと顔をそらした。
「……それを渡せ。前は俺が拭く」
「は、はい」
身体を拭く布を受け取ってアシュラフが立ち上がった。
シアンは器から別の布をとり、こちらに向けられた王の背をぬぐう。
それから無言の時間が続いたけれど、それは穏やかな沈黙だった。
最後に、前開きの衣服をアシュラフの肩にかける。
胸元があいたゆったりとした服を腰紐で固定し、身支度を終えた。
チャプ...
湯をためた器を右手に持ち、シアンがその場を離れる。
「…何処へ行く?」
「外で待つ侍従に渡すだけです。私は陛下の護衛ですから部屋を離れることは致しません」
「そうか……ふっ、お前も息が詰まるな」
「どういう意味でしょうか?」
「四六時中、俺と同じ空間で、疲れるだろうと言っている」
「……?」
呼び止められたシアンは、一瞬、わけがわからずきょとんとした。
それから大真面目な顔で答えていた。
「──…陛下。かつて賤人(せんにん)であった私は……何をしようが、生きようが死のうが、そのすべてが己の自由でありました。つまり私が今ここにいるのは他ならぬ自分自身の選択です」
スルタン・アシュラフは、嘘のない声でそう告げるシアンをまじまじと見る。
「…であれば、自由であったお前を王宮へ呼び寄せたものは何だ?」
「それは……」
「目的があったのだろう」
「勿論です、陛下」
続く問答にも、シアンは即答だった。
「私の目的は、遠き昔の誓いを果たすこと」
「……」
「大切な人へ誓った──…大切な、約束です」