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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第43章 誓い

「…っ…何事ですか?」

 その拍子に落とした器が床で跳ね返り、中身を周囲にぶちまける。

「合図もせず勝手に戸を開けるなど…」

「シアン・ベイオルク殿!!そうも言っていられぬ事態だ!」

 こぼれた湯のいくらかを浴びた男は侍従のひとりで、濡れた衣を気にとめず大声で喚いた。



「帝国が挙兵し、我が領内に侵攻した!!」


「は…………!?」


「夜のうちに国境を超えたらしい…っ。たった今、伝令が……!」


「帝国が……侵攻……?」



 まさか


 瞠目するシアンが、すぐに言葉を返せず立ち尽くす。


 侍従はなおも叫んだ。



「帝国に引き渡されたタラン様がっ……尋問のすえ、我が国が大量の兵器を隠し持っていると自白したらしいのだ!地下用水路の破壊も火槍(シャルク・パト)の密造もすべて!陛下の命令によるものらしい!」


「……!」


「帝国は大義名分をかかげて王都に攻め入るつもりだっ……これでは周辺諸国も手が出せない!どうすれば……」


 いまや王宮全体が大混乱なのだろう。騒ぎはここまで響いてくる。


「と、とにかく陛下にはこちらに留まって頂いてっ……議会の決定を待たれよ」


 侍従の男は慌ただしくそう言い残し、緊急招集されている大神殿へと走って行った。


 シアンは、そこへ置き去られた。





 何が……起こっている



 そんな馬鹿なコトが、何故
 このタイミングで





「──…何故ですか、ヤン」



 シアンが吐息のような声で呟いた。

 呆然としたまま、背後に振りむくことができなかった。

 帝国の侵攻──。

 現実味があるようで無いようなこの事態に対して、自身がとるべき行動が浮かばない。

 ……違う。本当は

 とるべき行動が明らかだから、思考を放棄するのだろうか。

 巡り、縺(もつ)れ、矛盾する

 そんな底なしの流砂に沈められたシアンを引き留めたのは



 コツンと、石床を叩いた靴の音──。



「──…お前は知っているか?」


「………!?」



 恐る恐る振り返ると、長い上衣の裾を引きづり、アシュラフが一歩ずつ此方へ進む。




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