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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第43章 誓い
「キサラジャには太陽神と水神がいる」
寝台があるところからゆっくりと動いて、身廊(しんろう)の突き当たり……金模様の天蓋の前で、王は立ち止まった。
「太陽神は人間を支配し、君臨する。命を審判し、罰を与える。…崇敬とともに畏れられる、あるべき神の姿だ」
薄い天蓋の重なりが空気を含んで膨らむと、その隙間に窓からの斜光が織り込まれて煌めきを増す。
シアンの視点からは、アシュラフの輪郭を浮き立たせるその光が……残酷に美しく映えた。
「一方の水神は、恵みと慈悲をつかさどる存在故に、すがる人間こそいようとも畏怖の対象とはならない。弱い神だと……誰もが思っている」
「……」
「…だが、…忘れられてはいるが、水神にしか務まらない重役がある。水の神は……」
アシュラフが手を招いた。
シアンは、扉にかけた手をずるりと落とす。それから、透明な紐で手繰り寄せられるかのように……足が動いた。
意思に反して前に進む。
本当は今すぐ後ろの扉から飛び出したいのに。
コツ....
コツ....
コツ....
シアンの重い靴音は、斬首台に上がる罪人のそれである。
行きたくはない。けれど後に戻る道もない。そして向かう先はひとつしかない──。
「水の神は時として……
陽の火を諫め、呑み込む」
「……っ……わかりま せん」
「……フッ」
口だけが、その場しのぎの言葉で反抗する。あまりにも不器用な抵抗はアシュラフに鼻で笑われた。
「わからない?──…有り得んな」
コツ....
コツ....
コツ....
延々と続くように思える身廊も、その長さは有限。
本気で逃げ出したいと願うシアンの身体をアシュラフの前まで運んでしまうのだ。