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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第43章 誓い
「……っ」
彼は頭を俯かせた
血が滲むまで唇を噛み締めた
息苦しさを覚え、自分が呼吸を忘れていた事に気が付いた
このままでは じきに指先の力を失うだろう
そうなる前にシアンは、腰に下げた三日月刀に手をかけた
───
素早く鞘から引き抜き、相手に向けて顔を上げたシアンの頬から涙が散った
「お前が国を守れ───……!
……っ……あの 日 ‥‥俺に‥‥誓っ‥‥」
「──…!」
「‥‥ッ‥‥‥‥‥ハァ‥‥‥ハ‥‥」
胸を刃で貫かれたアシュラフが
血の塊を吐き出す
引き抜いた刀を背後に投げ捨てたシアンが、崩れ落ちるアシュラフの身体を抱き留める
「‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥、‥ッ」
「ぁ‥‥ぁ‥‥!」
ぐったりと…静かに身を預けるアシュラフを
震えながら…かき抱いた
彼の喉から嗚咽が込み上げる
「‥ッ‥‥‥!!‥‥‥そ、して」
「‥‥‥‥‥‥!?」
「俺を‥‥憎んで、くれ‥‥‥‥愚かな、兄を」
「‥‥‥‥」
「弟よ(アジャ)‥‥────」
アシュラフの声が…息が…遠のく。
最期のひと言は信じられないほど優しくて、胸の傷からドクドクと流れ出る血と同じくらい、温かかった。
こんなに温かいのに……!
それきり、言葉が続くことはない。
力が抜けて重みを増す身体を支え、シアンはゆっくりと床に膝をついた。
《 俺を憎んでくれ 》
「‥‥‥‥は い」
「───…」
「兄上は‥‥このうえなく‥‥愚かでした‥‥!!」
もう聞こえているのかもわからない。死にゆく兄を抱いて、哀れな弟が涕泣(ていきゅう)する──。
それでも伝えなければならなかった。
「ですが僕は‥‥貴方を憎んではおりません‥‥
愛する貴方を憎んだことなど‥‥っ
ただの一度も、ありは しません‥‥‥‥!」
心から愛する兄は、この孤独な王宮で、たったひとりで戦っていたのだから。
ふたりきりの悲劇の兄弟は、長く長く続いた離別の果てに、遂に再会の時を迎えたのだった──。
──