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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
鳥がところどころで鳴き出す朝は、まだ日が昇る前の、東雲(しののめ)の空。
ヤンの目的がわからないバヤジットは、いよいよ自分は処刑されるのかと腹をくくった。
二年前
スルタン・アシュラフが崩御した日──
帝国軍は引き返した。けれど後日、キサラジャは兵器密造の責任をとり、近衛隊将官をはじめとする高官の身柄を帝国に引き渡すことになった。
そのためバヤジットは帝都に幽閉され、しばらく監獄生活だった。一年前から、日中は外で労働作業をさせられている。
“ ダラダラと生き残ったが……俺もそろそろ潮時か ”
ただ、処刑までの道程にしては、手枷があるだけで武官がいない不用心さが気になるバヤジットだった。
皇帝が歩いているのに、付き人がひとりもいない。
ここで暴れれば簡単に逃げられそうだ。
「…面倒だから逃げようとするなよ」
「……」
「勘ぐらずともお前は助けてやる。自由の身だ。キサラジャに返してやるよ。良かったな」
「は…?本気か?」
「本気だが?」
そしてヤンは、本気なのか嘘なのかとてもわかりにくい顔でニヤリとした。
この男は信用できない。
バヤジットは警戒していた。
「ハッ…嘘などつかん。お前は生かしていた方が面白いからそうする、それだけだ。なにせ、俺の可愛い可愛いシアンの…嫌がる顔が見れるからな」
「……!!」
「…ふん、なんだその顔は。今さら俺を恨む気か?」
バヤジットの顔が殺意をあらわに強ばると、ヤンはますます可笑しくなった。
「──… " あの結果 " を選んだのはシアンだ、俺じゃあない。ましてやお前でもないだろう…バヤジット将官。あいつは見事に復讐を果たしてみせた」
「違う。あれは……シアンが望んだ結果ではない」
獄舎を出て広大な宮中の庭を歩いていた二人は、牡丹の花が見事に咲き誇る園地で足を止めた。
葉についた朝露を一陣の風が揺らして、空に吸い込まれる。