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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
バヤジットは苦しそうに語った。
「シアンには夢があった。王の臣下となって、王を守り続けることを願っていた…!」
「……」
「強く、願っていたのに…」
「……なるほどそりゃあ、不憫だな。あいつに臣下が務まるものか。あいつは……シアンは、生まれながらの王族だった」
バヤジットの隣で、ヤンが冷淡に微笑む。
牡丹の花に指をはわし…そのひとつをもぎ取った。
「全てを奪われ賤人(せんにん)の身に堕とされようと、国の奴隷であり続けたか…。ナニがそこまで、あいつを突き動かしたかは知らんがな」
不自由な奴だ……
ヤンが呟いて、手の中の牡丹を握りつぶした。
すると、遠く築山(つきやま)の向こうから、ひとりの役人がバタバタと走ってきた。
バヤジットと同じくらいの歳の男が、息をきらして二人に駆け寄る。
「皇帝陛下…っ…いったい何処に消えたのかと探しましたぞ!おひとりでの外出はやめて下さいとあれほど…っ。王妃様も心配なさっています」
「今日もご苦労だな。王妃の嫌味はお前が変わりに聞いておけ」
「何を仰っておりますか…はぁ」
ヤンの臣下は頭をかかえた。
曲者(くせもの)の君主の世話は大変だろうということが、この瞬間だけでもバヤジットに十分伝わった。
そのバヤジットの視線に気付いた臣下が、今度こそ悲鳴に近い声で叫ぶ。
「なんですかこの男はー!?まさか獄舎の罪人でございますか?何故武官も連れず外へ出しているのですか??」
「キサラジャのバヤジット将官だ。刑武局に話は通しているから祖国へ送り返しておけ」
「ええええ…!?」
「重そうな荷だが、輸送費はタダでみてやれ」
「…っ…あ、お待ちください!」
苦言すらも言えなくなったか。口を開けて呆れる臣下だったが、ヤンがまたしても勝手にどこかへ歩き出すから慌てていた。
後からきた武官に、とりあえずバヤジットを拘置所に連れて行くよう指示を出している。
バヤジットに別れも告げず、ヤンはそのままどこかへ立ち去った。
「──…何故、安静にしてくださらないのですか?皇帝陛下。ここ数日はとくに体調がすぐれないといいますに…」
「……」
バヤジットと別れた後で、臣下の男が言いにくそうに切り出す。