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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
ヤンは握りつぶしてバラバラになった花弁を宙に放って、池のほとりに捨てる。
「…わかりきった事を聞くな。俺に残された命の " 期限 " は動かない。今さら引き伸ばす気にもならん」
朝の日が昇り始める。
日の光が苦手なヤンは、花弁が浮かぶ水面のきらめきにも耐えられずに、赤色の目を細める。
肌も弱い。これ以上太陽が姿を見せる前に、彼は宮殿に戻らなければならなかった。
それは変わることのない──神に見捨てられた者の、宿命だ。
「もう十分に生きたと──…そこまで悟ってやろうとは思わんが。…だが、そうだな」
けれどヤンの表情に暗がりはなかった。
「──…存外、悪くはなかった。
俺を見捨てた神とやらを…呪わずにすみそうだ」
父を殺され、賊に囚われ、他国の娼館でモノとして扱われ、命を削り復讐を果たした。
絵に描いたような悲惨な道を歩いてきたが、だが彼の隣にはシアンがいたのだ。
不思議なものだ。
父を裏切った先帝を殺す為に、それを目的に生き続けたのに、こうして懐古(かいこ)されるのは…目的とは無縁な、もっと些細な、なんて事のないシアンとの日々。
“ …どうやら俺も、本気で惚れていたらしい ”
向けられる不満げな顔も、皮肉を混じえたくだらない会話も、思えば愛しい瞬間だった。
そんな彼を最後に裏切ったのは自分だが、後悔はない。
ヤンは……この命を楽しんだ。
あとは地獄に堕ちてから、気長に罪をつぐなおう。
築山(つきやま)のひとつにもたれるように倒れたヤンは、うるさく騒ぐ臣下の声をいつものように嘲笑い、霞んできた視界のふちに春の到来を見送った。
───…