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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ

 それから数日のうちに、バヤジットの身柄は祖国キサラジャに引き渡される。

 国境の関所では、元部下だった騎兵師団の男がバヤジットを迎えに来ていた。

 挨拶と一緒に渡された、近衛隊の階級を示す頭巾(ターバン)留め。

 とっくに剥奪されたと思っていたバヤジットは、奇妙な心境でそれを受け取った。

 そして彼はすぐには王都に向かわず、部下とともにいくつかの街を転々とした。




 二年という、長いようで短い間にも、キサラジャは国の在り方を変えていた。

 砂漠に点在する街や村は、主要な街道ぞいにまとめられ、大がかりな移築工事の最中だ。

 街には、貴族の寄付による複合施設(キュリエ)が建造されている。

 キュリエとは、商店やハンマームといった営利施設の売り上げで、学校や病院を運営する建築物だ。

 建て主である貴族は、望んだ平民に《手形》を無償で渡すことができた。手形を持った平民は、利益の一部を払うかわりにそこで自由に商売をおこなえる。

 誰でも商いを始められる仕組みとなったのだが

 さらにこれを可能にしたのは、身分制度の改革。

 身分制度における階級と職分──このふたつを無関係にしたことだ。

 もともとキサラジャにある身分制度は、その者の仕事を決めるものだった。

 政治と国防に関わる「貴族」
 その他の仕事を家名とともに引き継ぐ「平民」
 宗教上タブーとされる職に従事する「賤人」

 その概念が撤廃され、商業や医療といった分野に貴族階級が関わり、平民も仕事を選び選ばれるようになり、賤人という概念は…結果として失われていく。

 あと十年もすれば、変化も目に見えてくるだろう。


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