この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
──…
「一晩の宿を借りる。いくらだ?」
二十日あまりの旅を終え、王都ジエルに近付いた。
とある宿屋に立ち寄ったバヤジットが亭主に聞くと、首を振って断られる。
「悪いが旦那様、四日後の朝まで、街の宿はぜんぶ埋まっておりますよ」
「全部?何かあったのか?」
「陛下一行が街にいらっしゃっているからですよ。役人やら護衛やら使節団だかを引き連れて、それはもう沢山でございます」
「……!」
バヤジットが言葉を呑むと、隣の部下が説明を加える。
「果樹園の件ですね。最近、西の同盟国から乾燥地帯で栽培可能な作物や果物、肥料、技術者を取り入れましたから。開拓地(かいたくち)の選定で巡行されているのです」
「そうそうそれです!本っ当に立派な王様だ。意地悪いアシュラフ王に嘘っぱちの罪をきせられて追放された後、自力で復讐をなしとげたって聞くが…、王宮に戻ってくださったことに感謝しなくちゃな」
気のいい宿屋の亭主がペラペラと話すが、それを聞くバヤジットの表情が固くなっていると気付いていない。
史実というのは、勝手なものだ。
生き残った者の都合でしか語られない。
かつての王弟を追放したのは、貴族の全員──王宮のすべてだ。みなで彼を貶めた。
そんな腐敗した王宮に囚われたアシュラフ王も、他ならぬ犠牲者だったのに……。
“ …陛下。貴方の心を疑心に歪めた者どもにこそ、天罰がくだるべきでしたのに ”
罰を受けるべきは自身も同じ。
己の信念を捧げ、守ると誓った君主が死に……おめおめと生きている自分が許せない。
忠義に厚いバヤジットは、本来、君主を殺されたあの日に命を絶ってしかるべきだった。
……それができなかったのは
彼には別に、償うべき罪があったからだ。
「おうおう、ウワサをすれば来ましたよ」
「……!」
その時 宿の外が騒がしくなる。
ぞくぞくと家から出てくる人々が、広場に現れた行列のほうへ歓声をあげたからだ。
「国王陛下、万歳!」
「国王陛下、万歳!」
彼らの声は宿の中にもはっきりと届く。
それを耳にしたバヤジットも、すぐさま宿を飛び出した。