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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ


──…


「一晩の宿を借りる。いくらだ?」

 二十日あまりの旅を終え、王都ジエルに近付いた。

 とある宿屋に立ち寄ったバヤジットが亭主に聞くと、首を振って断られる。

「悪いが旦那様、四日後の朝まで、街の宿はぜんぶ埋まっておりますよ」

「全部?何かあったのか?」

「陛下一行が街にいらっしゃっているからですよ。役人やら護衛やら使節団だかを引き連れて、それはもう沢山でございます」

「……!」

 バヤジットが言葉を呑むと、隣の部下が説明を加える。

「果樹園の件ですね。最近、西の同盟国から乾燥地帯で栽培可能な作物や果物、肥料、技術者を取り入れましたから。開拓地(かいたくち)の選定で巡行されているのです」

「そうそうそれです!本っ当に立派な王様だ。意地悪いアシュラフ王に嘘っぱちの罪をきせられて追放された後、自力で復讐をなしとげたって聞くが…、王宮に戻ってくださったことに感謝しなくちゃな」
 
 気のいい宿屋の亭主がペラペラと話すが、それを聞くバヤジットの表情が固くなっていると気付いていない。


 史実というのは、勝手なものだ。

 生き残った者の都合でしか語られない。

 かつての王弟を追放したのは、貴族の全員──王宮のすべてだ。みなで彼を貶めた。

 そんな腐敗した王宮に囚われたアシュラフ王も、他ならぬ犠牲者だったのに……。


“ …陛下。貴方の心を疑心に歪めた者どもにこそ、天罰がくだるべきでしたのに ”


 罰を受けるべきは自身も同じ。

 己の信念を捧げ、守ると誓った君主が死に……おめおめと生きている自分が許せない。

 忠義に厚いバヤジットは、本来、君主を殺されたあの日に命を絶ってしかるべきだった。


 ……それができなかったのは


 彼には別に、償うべき罪があったからだ。



「おうおう、ウワサをすれば来ましたよ」

「……!」

 その時 宿の外が騒がしくなる。

 ぞくぞくと家から出てくる人々が、広場に現れた行列のほうへ歓声をあげたからだ。

「国王陛下、万歳!」

「国王陛下、万歳!」

 彼らの声は宿の中にもはっきりと届く。

 それを耳にしたバヤジットも、すぐさま宿を飛び出した。


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