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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第5章 籠の鳥の境遇

 そういえばと机に置き去りにしていた荷物を思い出し取りに行く。

 その間にも、ベッドに座ってあたふたしているオメルがいた。仔犬か。

 あの真っ直ぐな人懐こさも彼を幼く見せてしまう原因だ。

 シアンは自分に注がれる視線を感じたまま荷物を取った。

 支給された隊服。

「……」

「…!シアンってさ、キレイな身体してるよなっ」

 隊服を手にシアンが押し黙っている最中も、まだオメルは喋っていた。先ほどのヘマを挽回(ばんかい)したいらしい。

「顔だけじゃなくて身体もキレイなんだな。痩せてるのはオレと一緒だけど─…でもぜんぜん違う」

「オメル……」

「背が高くて足長くて、司令部に置いてある彫刻みたいだ。…ん?ん~?いや違うな…あんなゴツゴツしてないか」

「…ハァ」

「そうだ!貴族の奴らが壁に飾ってる絵画から出てきたみたいだ。たとえばーたとえば、あれ、太陽神のとなりにいつも女神さまがいるだろ?その──」

「オメル、黙るんだ」

「ッ…?」


 すると突然、シアンの声色が厳しくなった。



「オメル…君はもっと他人を警戒したほうがいい」


 シアンは自身の容姿を褒められる経験が絶えずある。それは必ず下心と一緒であると決まりきっていた。

 だがオメルのこれは違う。

 彼のは純粋な憧れだ。これは、不味い。

「…っ…シアン?どうした?」

「僕は君が憧れるような人間じゃないよ。顔も身体も……、コレが人より優れているのは、コレが僕の商品だからだ」

「しょうひん…?」

「僕は自分の意思で、自分自身を売ってきた。これまでも、…そしてこれからも僕はコレを武器に生きていく。その為に整えている商品だ」

「あ…!」

 シアンの言葉の意味を理解したオメルは両手でハッと口元を覆った。自分の失言に気付けないほど、兵団(ここ)にいる彼は子供ではなかったというわけだ。

「僕の身体はね、そんなキラキラとした目で見つめるものじゃないのだから……」

「あ、の…」

「──…そもそも君がこんな場所にいるのも、その警戒心の無さが原因じゃないのかい?」

「……!」


 シアンの語気はなおも冷たかった。



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