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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ

 近衛兵の隊列にはさまれて、技術者たちが歩き、たくさんの用具が運ばれている。

 その中陣には騎兵隊が固まり、彼等が護衛する二頭のラクダがいた。

 後方のラクダの背にいるのは、歳は十代の青年だった。

 オリーブ色の艶肌と、帽子からはみ出した明るい色の短髪。

 装飾された鞍の上で揺れているその青年は、キサラジャの王太子──次期スルタンである。

 彼がもともといた隣国の王朝は、かつてのキサラジャ妃殿下が嫁いだ遠縁にあたり

 キサラジャ王家の血筋をつぐ彼を、半年前、王太子として迎え入れたのだ。



「…陛下、左前の宿屋にいる大柄な男…近衛隊の帽子を被っておりますが、何故あそこで立っているのでしょう」

「……」

 王太子はラクダのスピードを少し早めて、前をゆく騎乗の人物に耳打ちした。

「先程からこちらを無言で凝視しており、怪しいです」

 王太子が指し示す先にはバヤジットがいる。



 耳打ちされた人物は──…

 そちらのほうを流し見た。



「──…」



 赤い絨毯(キリエ)と房飾りで鮮やかに装飾された鞍(くら)。

 その上でスっと背筋を伸ばし、毛皮のついた羽織(キュルク)を肩にかけ……

 金糸と絹糸で織った繊細な刺繍のカフタンを、風に揺らめかせる。

 手網を巻き付けてラクダを操る左腕は、やはり……義手とは思えない器用さだった。



 宝玉がついた帽子からは、薄く色付いた紗(しゃ)が垂らされて、彼の顔を隠してある。



「………」



 彼がふいに右手を上げた。

 すると隣の近衛兵が、合図を出して隊列の歩みを止めた。

 ただ黙って見上げるばかりのバヤジットの目の前で、騎乗の彼が止まったのだ。

「陛下?突然どうなさったのですか?こんな所で止まっては人が集まり進み辛くなりましょう」

 隣の王太子が問いかけたが、ポン、と肩に手を置いてさがらせる。



 ──そして声を発した。



「…ジフリル・バヤジット・バシュ。貴方だな」


「……!」


「帝国からの話はすでに伝わっている。長い幽閉生活…ご苦労であった。こうして無事に戻ってきてくれたことに感謝しよう」



 その声は、間違いなくシアンの声だった。

 耳にしたバヤジットの体温が上がって、頭の頂部から足の爪までが一気に熱くなる。


 けれど



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