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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
「貴方は有能な軍人だ。知っての通り、今のキサラジャは他国に比べて軍の練度が低い。貴方の力添えが不可欠なのだ」
その声はシアンで間違いないが
そこにいるのは、全くの " 別人 " だった。
「…貴方さえよければ、近衛隊将官として、これからも王家に仕えてくれないか?」
「シ……!?」
凛と透き通るその声に、騒ぐのをやめた周囲の街人が、惚けた顔で溜め息をつく。
気品と……そして威厳をも持ち合わせている
その姿は疑いようもなく、国を統べるスルタンだった。
バヤジットが知る、シアン・ベイオルクは、そこにいなかったのだ。
『 ──…僕に剣術を教えてください。この手で陛下をお護りできるように、貴方に稽古をつけてほしいのです 』
臣下として兄を守りたいと願ったシアンは
『 汚泥にまみれた僕を抱き、お前もその身を腐らせろ!!』
心の底からバヤジットを恨み叫んだシアンは
もう──…何処にもいない。
嘆く権利なんてないのに、バヤジットにはそれがとても痛ましかった。
再び王家に仕えてくれないかと言う君主の問いかけに対して、押し黙るしかできない。
そうでもしなければ、後先を考えないこの口が取り乱し、 " シアン " に向けて叫び出しそうだった。
何故俺を責めない!?
どうしてそんなふうに落ち着いていられる!?
シアンを傷付けるであろう身勝手な言葉が、どんどん溢れてくるからだ。
妙な沈黙が流れるせいで、状況がわからない人々が首を傾げ、周囲がヒソヒソと話し出す。
「陛下、進みましょう」
待ちかねた王太子がそう言って、再び隊列が動こうとする。
──その時だった。
「あ……あなたがバヤジット様でいらっしゃいますか?」
「は……?」
「おお、お会いしとうございました…お会いしとうございました…」
綺麗とはいえない衣服を身に付けた初老の男が、注目の的であるバヤジットに構わず声をかけたのだ。