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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
ぎょっとして相手を見下ろしたバヤジットだが、見覚えのない顔だった。
「な、何者だ…?」
「わ…私は、ナハルと申します。遠くの村で…は、墓守(はかもり)をしておりました」
自分から声をかけたにも関わらず、バヤジットの鋭い人相(にんそう)に男は怯えているらしい。
男は頭を低くして、恐る恐る話しかけ続けた。
「私の息子は近衛隊におりました……!
オメル、息子の名は、オメルといいます」
「……!オメル?まさかっ歩兵師団のオメルか?」
懐かしい名が耳にはいる。
「……!」
移動を開始しようとする隊列の中、君主の手が、ピクリと微かに反応した。
「オメルの父が何故俺のことを知って…!? いや、俺にどんな用があってきた?」
「オメルは読み書きもできねえ子です。な、なのに突然、近衛兵になれると喜んで、王都へ行った大バカ者です。それっきり何年も連絡がなく…死んだもんと諦めておりました」
「……そうか」
「で!ですがある時、手筒(てがみ)が届くようになりました!汚い字ですが」
男は握りつぶしそうな勢いで、ふところからたくさんの手筒を出して見せた。
「バヤジット様という上官が、自分をかくまってくれている。元気にやれてる。メシも食べてる。街に出て遊んだ。はじめて浴場に行った。──…ぜんぶ、あいつからの手筒です」
その手筒のどれもが、読むのも難しい下手くそな文字で埋めつくされていた。
それは真にオメルの言葉であり
彼が生きた証だった。